2019年のアートシーンをプレイバック!(7月〜12月編)

様々なトピックスがあった2019年のアートシーン。美術手帖で取り上げたニュースのなかから、とくに振り返っておきたい出来事を2回に分けてお届けする。今回は7月〜12月編。

「あいちトリエンナーレ2019」の会場風景より、左からキム・ソギョンとキム・ウンソン《平和の少女像》(2011)、白川昌生《群馬県朝鮮人強制連行追悼碑》(2015)

7月

上空からみたシードルゴールドの屋根 ©︎Atelier Tsuyoshi Tane Architects

・青森県弘前市の吉野町煉瓦倉庫を改修し、新たにオープンする現代美術の名称が「弘前れんが倉庫美術館」に決定。2020年4月11日の正式開館が発表された。設計は建築家・田根剛が手がける。
>>館名は「弘前れんが倉庫美術館」に決定。田根剛デザインの現代美術館が2020年4月にオープン

・SFコミック『AKIRA』の原作者・大友克洋が、同作の新アニメ化プロジェクトを発表。1988年に制作されたアニメ版『AKIRA』のストーリーを補完する「完全版」的なものとなる。またあわせて、新作劇場SFアニメ『ORBITAL ERA(オービタルエラ)』のプロジェクトも明らかとなった。
>>大友克洋が『AKIRA』の新アニメ化と新作『ORBITAL ERA』プロジェクトを発表

・東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館が同敷地内に移転・新装後、「SOMPO美術館」として2020年5月に開館することを発表。同館はゴッホの《ひまわり》(1888)を常設展示するほか、開館記念展の次には、ゴッホの多面的な展開を追う「ゴッホと静物画-伝統から革新へ-」を予定している。
>>新名称は「SOMPO美術館」。損保ジャパン日本興亜が新美術館の開館記念展を発表
 

8月

「あいちトリエンナーレ2019」の会場風景より、ウーゴ・ロンディノーネ《孤独のボキャブラリー》(2014-16)

・8月1日、「あいちトリエンナーレ2019」が開幕した。翌2日、河村たかし名古屋市長が展示のうちのひとつである「表現の不自由展・その後」を視察し、大村秀章愛知県知事に対して、キム・ソギョンとキム・ウンソンによる《平和の少女像》(2011)の撤去を要請。抗議・脅迫の電話が殺到し、運営側はこれ以上の展示継続は困難と判断した。3日に芸術監督・津田大介と大村知事が記者会見で「表現の不自由展・その後」の展示中止を発表。6日には参加作家72組がステイトメントを発表し、その後は海外作家を中心に展示室の閉鎖や展示内容の変更、様々なプロジェクトの立ち上げが相次いだ。一連の流れは、以下の記事に詳しい。
>>「情」でつながるアート。津田大介による「あいちトリエンナーレ2019」に注目
>>あいちトリエンナーレ2019「表現の不自由展・その後」展示中止にまつわる出来事のまとめ

バンクシーの活動をたどる「BANKSY展(仮称)」が、2020年8月29日~12月6日に東京・天王洲の寺田倉庫 G1ビルで開催されることが発表された。本展は、謎に包まれたその軌跡を、バンクシー自身がプライベート・コレクターに譲ったステンシルアート作品でたどるもの。なお東京の後は大阪巡回も予定されており、詳細は来春に発表される。
>>2020年夏、バンクシーの展覧会が寺田倉庫で開催へ
 

9月

アーティゾン美術館の外観

・ICOM(国際博物館会議)が、京都の国立京都国際会館をメイン会場として日本で初めて開催。またそれを記念し、世界遺産である清水寺で「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展」が8日間限定で行われた。本展の監修は原田マハが務め、現代美術から文学、マンガ、映画までジャンルを超えた作品が集結した。
>>ミュージアムは持続可能な社会にどう貢献すべきなのか? ICOMでセッション開催
>>リヒターの日本初公開作品も。京都・清水寺で「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展」を目撃せよ

森美術館の現館長・南條史生が2019年12月末で引退し、現副館長・片岡真実が2020年1月1日に新館長として就任することが、9月19日に発表された。
>>森美術館の館長が交代、片岡真実が新館長就任へ。「求められる森美術館像を新たに模索」

・9月26日、「あいちトリエンナーレ2019」の展示内容についての事前の申請内容が不十分だったとして、文化庁は約7800万円の補助金全額不交付を決定。25日に「あいちトリエンナーレのあり方検証委員会」第3回会合で「表現の不自由展・その後」の展示再開が示された矢先の出来事となった。これを受けて抗議の声が広がり、「change.org」ではあいトリ参加作家によるプロジェクト「Refreedom_aichi」が立ち上げたキャンペーンが10万筆以上の署名を集めている。
>>文化庁、あいトリへの補助金全額不交付を決定。文化庁前ではデモも

・東京・京橋のブリヂストン美術館は「アーティゾン美術館」として2020年1月18日に開館予定。それに先立ち、美術館の建物が公開された。無柱展示室や幅15メートルにわたる古美術のための一枚ガラスなど、作品を最大限に引き立てるための設備が整った。また同館では、すべての展覧会で「日時指定予約制」の導入が予定されている。
>>アーティゾン美術館の建物が公開。無柱展示室や16メートルの吹き抜けも
 

10月

「塩田千春展:魂がふるえる」の会場風景より、《不確かな旅》(2016 / 2019)

・10月8日、「あいちトリエンナーレ2019」で8月3日に展示中止となった「表現の不自由展・その後」を含め、展示中止・展示内容の変更を行っていたアーティストの全作品の展示が再開された。「不自由展」では再開にあたり、事前抽選や入替制、荷物チェック、金属探知機などを導入。初日は1300人あまりが抽選に応募した。また大浦信行《遠近を抱えてPartⅡ》など、一部の作品は展示方法が変更となった。
>>「不自由展」だけじゃない。あいトリで全作品が展示再開

・10月12日から13日にかけて関東地方を縦断した台風19号で、映画・マンガ関連資料などを多く収蔵する川崎市市民ミュージアムが被災。館内の電気・空調設備が使用不能となり、9つの収蔵庫への浸水と収蔵品の被害が確認された。なお収蔵品の救出・保存のために、独立行政法人国立文化財機構による技術的支援が決定している。
>>台風19号で被災の川崎市市民ミュージアム。収蔵品救援のために国立文化財機構の技術的支援が決定

・10月14日、「あいちトリエンナーレ」が75日の会期を終えて閉幕。入場者数は、あいトリ史上最高となる65万人以上を記録した。
>>あいちトリエンナーレ2019が閉幕。65万人以上で過去最高の入場者数を記録

・森美術館で開催された「塩田千春展:魂がふるえる」(6月20日~10月27日、130日間)が66万6271人の入場者数(六本木ヒルズ展望台 東京シティビューとの共通チケット)を記録。「ハピネス:アートにみる幸福への鍵 モネ、若冲、そしてジェフ・クーンズへ」(2003~04年)の73万985人に次いで、同館歴代2位の数字となった。
>>森美術館「塩田千春展」、66万6271人の入場者数を記録。同館歴代2位
 

11月

会田誠が公開したウェブサイトより

・日本とオーストリアの国交150年の記念事業として、ウィーンの「ミュージアム・クォーター」で開催された展覧会「JAPAN UNLIMITED」。会田誠Chim↑Pomをはじめとするアーティストが参加した本展の公認を、在オーストリア日本大使館が11月5日までに取り消した。安倍晋三首相や昭和天皇、東京電力福島第一原発などを扱った作品が問題視されたとみられている。また会田は、自作《The video of a man calling himself Japan’s Prime Minister making a speech at an international assembly》(2014)の全文書き起こしと作品の意図を公開し、撤回に抗議の意を示した。
>>「傷を負ったのは日本」。会田誠ら参加のグループ展で日本大使館が公認を撤回
>>会田誠が抗議。総理大臣に扮した映像作品の全文書き起こしを公開

・2016年から建て替え工事が進められてきた渋谷のランドマーク「渋谷パルコ」が11月22日、ついにオープン。パルコによる「PARCO MUSEUM TOKYO」「GALLERY X」に加えて、美術手帖初の実店舗「OIL by 美術手帖」やNADiffの新業態「Meets by NADiff」など、アートスポットも多数誕生した。
>>ミュージアムからウォールまで。新生「渋谷パルコ」でチェックしたいアートスポット(前編)
>>「2G」から「ほぼ日」まで。新生「渋谷パルコ」でチェックしたいアートスポット(後編)

・9月、2020年から森美術館の新館長に就任することが発表された片岡真実が、アジア人として初めて国際美術館会議(CIMAM)の会長に任命された(任期は2020~22年)。
>>片岡真実が国際美術館会議(CIMAM)の新会長に任命。アジア人として史上初

・2020年3月21日にリニューアル・オープンを控える京都市京セラ美術館(京都市美術館)の建物内部が、11月16日に公開された。今回のリニューアルを手がけたのは、同館館長でもある建築家の青木淳。ウェブ版「美術手帖」では、青木にインタビューを行った。
>>京都市京セラ美術館の建物が公開。大規模リニューアルの注目ポイントとは?
>>建築家として、館長として。青木淳は京都市京セラ美術館をどこに導くのか?

・東京・上野の国立西洋美術館が、エドゥアール・マネ《嵐の海》(1873)を、スイスのベルン美術館から約4億円で購入したと発表。《嵐の海》はもともと同館の根幹をなす「松方コレクション」に含まれていたが、第2次世界大戦中にフランス国内で売却後に行方がわからなくなり、2014年に発見された。なお同作は、今年度中には収蔵品として常設展示室にて公開予定となっている。
>>国立西洋美術館、松方コレクションのマネ作品を約4億円でベルン美術館より購入
 

12月

「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」での展示風景より、マウリツィオ・カテラン《Comedian》(2019) Courtesy Art Basel

・イギリスを拠点とする現代美術作家を対象とする「ターナー賞」で12月4日、史上初めて最終候補者が全員で共同受賞することとなった。今年の最終候補者は、ローレンス・アブ・ハムダン、ヘレン・カモック、オスカー・ムリーリョ、タイ・シャニの4名。アーティストたちが分断社会における多様性や連帯の重要性のもとに共同受賞を呼びかけ、満場一致で採択されたという。
>>分断社会、芸術も連帯を。今年のターナー賞は4人の候補者が共同受賞

・12月8日に幕を閉じた「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」のペロタンのブースで、マウリツィオ・カテランが本物のバナナを灰色のスコッチテープで壁に貼り付けた作品《Comedian》(2019)を発表。初日には3つ目のエディションを1600万円という高額で美術館が予約購入し、話題を呼んだ。
>>1600万円の「バナナ」に“事件”。アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2019で起きたこと

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