• HOME
  • MAGAZINE
  • INSIGHT
  • ジェフ・クーンズの記録更新から1600万円の「バナナ」まで…
2019.12.19

ジェフ・クーンズの記録更新から1600万円の「バナナ」まで。2019年のアートマーケットを振り返る

1月の開催直前に中止されたアートフェア「アート・ステージ・シンガポール」から、12月の「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」で物議を醸した1600万円の「バナナ」まで。美術手帖で取り上げたなかから、とくに振り返っておきたいアートマーケットで起きた出来事をお届けする。

 

「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2019」の展示風景より、マウリツィオ・カテラン《Comedian》(2019) Courtesy Art Basel
前へ
次へ

・1月、今年で9回目の開催を迎えるはずだったアートフェア「アート・ステージ・シンガポール」が、開幕を目前に開催中止となることが発表された。2011年からシンガポールで開催されてきた同フェアは、東南アジアでもっとも巨大なアートフェア。しかしながら近年はその求心力低下もささやかれ、参加ギャラリー数は年々減少。今回の開催中止は、主催側の慢心が招いた事態でもあったという。

>>前代未聞の事態。シンガポールでアートフェアが開催直前に中止へ

・2月、かつてニューヨーク「アートシーンの女王」と称されたアメリカのギャラリスト、メアリー・ブーンが虚偽の納税申告書を提出し脱税したため、2年6ヶ月の懲役刑を宣告された。その判決の一部としてギャラリーを閉鎖せざるを得なかった。8月、ニューヨーク・チェルシーの西24丁目にあるブーンのギャラリースペースは、ガゴシアンによって引き継がれた。

>>「アートシーンの女王」メアリー・ブーンに実刑判決。約3億円以上の脱税で2年半の懲役へ

・3月、アート・バーゼルとUBSが、2018年の世界美術品市場を分析するレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2019」を公表した。昨年、世界の美術品市場規模は推計674億ドル(約7兆5000億円)に達したという。市場トップ3はアメリカ、イギリス、中国で、3ヶ国で総売上高の84パーセントを占めている。同月、一般社団法人アート東京が発表した「日本のアート産業に関する市場調査2018」によると、昨年日本の美術品市場は2460億円だった。

>>世界の美術品市場は推計約7兆5000億円。アート・バーゼルとUBSが2018年のレポートを発表

サザビーズ香港で行われた「NIGOLDENEYE® Vol. 1」のプレビューより、KAWS《THE KAWS ALBUM》(2005)

・4月1日にサザビーズ香港で開催されたオークション「NIGOLDENEYE® Vol. 1」では、KAWSの《THE KAWS ALBUM》が、予想価格の約15倍となる1478万4505ドル(約16億4700万円)で落札され、そのオークション過去最高額を記録した。台北、香港、日本・富士山の麓で巨大な彫刻プロジェクト「KAWS: HOLIDAY」を発表してきたKAWSは、今年のアートシーンで大いに存在感を放った。しかしそんなKAWSは、10月サザビーズ香港で開催されたオークションの出品リストにあった毛沢東のポートレイト写真をパロディ化した作品で、中国で激しい抗議を受け、展示が取りやめられたこともあった。

>>KAWSの作品が予想落札価格の15倍。NIGO®の個人コレクションが約31億2000万円で全品落札

・5月初旬の「フリーズ・ニューヨーク」会期中、ブルックリンで「アートフェアビジネスの常識を覆す」と会期前から話題を集めていたアートフェア「Object & Thing」が初めて開催された。同フェアの最大の特徴は、出展料が無料という点。世界各国から32のギャラリー、200のオブジェクトが集まった初回のフェアには、従来のアートフェアでは常識の「ブース」がないことでも話題を集めた。また、作品の分類は、椅子や器、花瓶などオブジェクトの種類毎に大まかに分けられた。

>>アートフェアの常識を覆す。ニューヨークで開かれた「Object & Thing」とは何か?

・5月15日にクリスティーズ・ニューヨークで開催された戦後・現代美術セールで、ジェフ・クーンズの《ラビット》が9107万5000ドル(約100億円)で落札。同作の落札は、昨年11月にデイヴィッド・ホックニーが9031万2500ドル(約99億円)という落札額で記録した、現存アーティストのオークションにおける過去最高額を更新した。

>>現存アーティストの過去最高額を更新。ジェフ・クーンズの《ラビット》が約100億円で落札

ジェフ・クーンズ Rabbit 1986 © Christie’s Images Limited 2019

・6月、オークションハウスの巨頭・サザビーズが、フランス/イスラエルの実業家兼アートコレクターのパトリック・ドライによって約37億ドル(約4007億円)で買収された。この買収により、同社はニューヨーク証券取引所で上場した31年後、ふたたび株式非公開企業となった。ドライは、サザビーズの経営陣が彼の「全面的な支援を得て運営を続けます」と述べたが、非上場化によって、経営が不透明になるのではないかという懸念も残った。

>>フランスの富豪が約4007億円でサザビーズを買収。ふたたび非上場化へ

・米中貿易戦争の影響により、2019年上半期の世界オークション売上高が減少。7月、美術品市場分析会社「ArtTactic」が発表したレポートによると、今年上半期の世界オークション売上高が、前年同期比で20.3パーセント減の55億5000万ドル(約6000億円)となった。そのうち、中国・アジア美術の売上高は、17年上半期の9億5100万ドルからほぼ半減し、4億4700万ドルになった。減少のもうひとつの要因は、印象派・近代美術の後退だ。世界全体で印象派・近代美術部門の売上高は、18年同期の24億ドルから15億ドルに大幅減少した。

>>2019年上半期の世界オークション売上高が前年同期比で20.3パーセント減。米中貿易戦争の影響か?

・8月、メトロポリタン美術館がサザビーズ・ニューヨークで開催されるオークションに300点以上の中国美術品を出品することを発表。アメリカでは、美術館のコレクション整理と新規収蔵のためのセールがたびたび行われている。ニューヨーク近代美術館が昨年写真作品400点以上をクリスティーズで、サンフランシスコ近代美術館が今年マーク・ロスコ《無題》(1960)をサザビーズで売却した。

>>メトロポリタン美術館が300点以上の中国美術品をオークションに出品。売却益は作品購入資金に

アート・バーゼル香港2019の会場風景より、塩田千春《Where Are We Going?》(2017-18)

・10月、政治的緊張が高まりつつあるにもかかわらず、アート・バーゼル香港が2020年の出展ギャラリーのリストを発表した。31の国と地域から242のギャラリーが出展する次回のフェアは、2020年3月19日〜21日に開催される。香港をめぐる情勢について、同フェアは「引き続き状況を注意深く観察し、すべての出展者と緊密に連絡を取り続けます」と声明文を公開した。

>>アート・バーゼル香港が2020年の出展者リストを発表。香港情勢の改善なるか?

・20世紀のもっとも重要な建築家のひとり、今年5月に逝去したプリツカー賞の受賞建築家イオ・ミン・ペイは、重要なアートパトロンでもあった。11月から12月にかけ、そんなペイと妻のアイリーン・ルーが72年の結婚生活のあいだに収集してきたアート・コレクションが、クリスティーズのオークションに登場。ジャン・デュビュッフェやジャック・リプシッツなどのスタジオを訪問し、アーティストから直接購入した絵画、ドローイング、彫刻などが出品された。

>>建築家イオ・ミン・ペイ夫婦のアート・コレクションがクリスティーズに登場。バーネット・ニューマンらの作品が出品

12月に開催されたアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」で、マウリツィオ・カテランが発表した作品《Comedian》をめぐって大きな物議を醸した。本物のバナナを灰色のスコッチテープで壁に貼り付けた同作は、フェアの初日に3つのエディションが12万ドル(約1300万円)〜15万ドル(約1600万円)の価格で購入された。閉幕の前日、ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、デビッド・ダトゥナがそのバナナを壁から剥がし、ブース内で食べるという“事件”が発生。Instagramでは、これをパロディにした「#cattelanbanana」が誕生し、別の盛り上がりを見せている。

>>1600万円の「バナナ」に“事件”。アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2019で起きたこと

「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2019」の展示風景より、マウリツィオ・カテラン《Comedian》(2019) Courtesy Art Basel