2023.4.28

建築も楽しめる全国の美術館・アートスポット BEST35

全国には建築が特徴的なアート施設が多数存在する。近年開館した注目の施設から、知る人ぞ知る地方の美術館の名建築まで、ぜひ訪れてみてほしい(本稿は2020年11月掲載記事の再編集版です)。

モエレ沼公園 写真提供=モエレ沼公園
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北海道・東北

​ 北海道でまず思い浮かぶアートスポットといえば、彫刻家イサム・ノグチがデザインしたモエレ沼公園だ。東京ドーム約40個分の広大な敷地には、幾何学形態を多用した山や噴水、遊具などの15の施設が整然と配置され、自然とアートが融合した美しい景観を楽しむことができる。

モエレ沼公園 写真提供=モエレ沼公園

 青森県からはまず、2020年に開館した弘前れんが倉庫美術館を取り上げたい。「記憶の継承」と風景の再生をコンセプトとした建築設計は、気鋭の建築家・田根剛によるもの。もとの建築は、築100年におよぶシードル工場。煉瓦倉庫の面影を可能な限り残した空間では、国内外のアート作品が紹介されるとともに、弘前市と東北地域の歴史、文化と向き合う同時代の作品も展示している。ミュージアムとともにカフェ・レストランも楽しめる。

弘前れんが倉庫美術館 撮影=ウェブ版「美術手帖」編集部

 同じ県内では、青森県立美術館にも立ち寄りたい。青森県出身の美術家・奈良美智による巨大な立体作品《あおもり犬》《森の子/Miss Forest》は、同館の見どころのひとつ。建築設計は、隣接する縄文遺跡・三内丸山遺跡から着想を得た青木淳が担当。シンボルマークやサインはデザイナーの菊地敦己が手がけた。​

青森県立美術館 写真提供=青森県立美術館

 青森県内では、十和田市現代美術館も外せない。西沢立衛が設計した同館は、草間彌生や奈良美智、ロン・ミュエクら世界で活躍する33組のアーティストによるコミッションワークによって構成されているのが最大の特徴。展示室は「アート作品のための家」であり、一つひとつを訪れるようにそれぞれが独立している。

十和田市現代美術館
館内のコミッションワークのひとつであるロン・ミュエク《スタンディング・ウーマン》

​ 1967年に平野政吉コレクションを展観する美術館として開館した秋田県立美術館は、その後2013年に安藤忠雄設計の建物に移転。藤田嗣治の30年代の貴重な作品群の常設展示を行うほか、調査・研究に基づいた企画展や特別展を開催している。

秋田県立美術館のエントランス 写真提供=秋田県立美術館

 建築家・伊東豊雄の設計による宮城県のせんだいメディアテークは、全面ガラス張りの建物が目を惹く。目や耳が不自由な人々への情報提供サービスも積極的に実施し、美術や映像文化の活動拠点として幅広く利用されており、日々様々な映像作品が上映されている。

せんだいメディアテーク 写真提供=せんだいメディアテーク

北陸・甲信越

 2004年にヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を、2010年にはプリツカー賞を受賞した建築家ユニットSANAA(妹島和世+西沢立衛)の建築として知られる金沢21世紀美術館は、表と裏のないガラスのアートサークルが特徴だ。明るく開放感あふれる建築は、様々な出会いや体験を可能とし、公園のような美術館として多くの人々に愛されている。恒久展示作品としては、レアンドロ・エルリッヒ《スイミング・プール》、オラファー・エリアソン《カラー・アクティヴィティ・ハウス》、アニッシュ・カプーア《L'Origine du monde》、ヤン・ファーブル《雲を測る男》などで広く知られる。

金沢21世紀美術館 撮影=渡邉修 写真提供=金沢21世紀美術館

 美しいガラスアートを紹介する富山市ガラス美術館は、美術館そのものも光り輝くファサードを持つ。ガラス・アルミ・御影石でつくられた独自性の高い建築は、隈研吾が手がけた。常設展では、富山市ガラス美術館所蔵の現代ガラス作品を展示するコレクション展をはじめ、展示室の壁面や図書館内に富山ゆかりの作家の作品を展示。また、6階「グラス・アート・ガーデン」では、現代ガラス美術の巨匠、デイル・チフーリの工房が制作したインスタレーション作品を鑑賞することができる。

富山市ガラス美術館 写真提供=富山市ガラス美術館

 山梨県からは、谷口吉生から藤森照信、安藤忠雄、杉本博司まで多数の名建築が集まる清春芸術村を紹介したい。谷口が設計したルオー礼拝堂は、打ちっ放しのコンクリートでできたモダンな空間となっており、ここではルオーが制作したステンドグラスやキリスト像などが展示されている。また芸術村の中心部には、安藤忠雄が設計した箱型の美術館、光の美術館がある。同館は自然光のみの美術館であり、その建築には、ガラスで切り取られた天井の一角や壁のスリットなど、人々の心に響く意匠が凝らされている。季節や時間によって様々な光の表情を堪能できる美術館だ。

光の美術館 (c)清春芸術村

関東

 東京からは、東京都庭園美術館をおすすめしたい。同館は、1933年に建設されたアール・デコ様式の旧朝香宮邸を活かした美術館として多くのファンを持つ美術館だ。当時の様子をそのままに伝える本館と、2018年に新たに誕生した新館のコントラストも同館の特徴だ。また、緑豊かな庭園もゆったりと楽しみたい。

東京都庭園美術館

 六本木の東京ミッドタウン内にある21_21 DESIGN SIGHTは、安藤忠雄建築だ。安藤のシグニチャーであるコンクリート打ちっぱなしによるデザインは直線的で、シャープなデザインが目を引く。2007年の開館以来、訪問者がデザインの楽しさに触れ、新鮮な驚きに満ちた体験ができるような展覧会が数々開催されてきた。

21_21 DESIGN SIGHT館内(「The Original」展) 撮影=編集部

 同じく六本木の国立新美術館は、黒川紀章によるもの。うねる巨大なガラスのファサードが印象的なこの美術館は、館内を縦に貫く吹き抜けもインパクト大だ。

国立新美術館 撮影=編集部

 ホテルオークラに隣接する大倉集古館は、明治から大正時代にかけて活躍した実業家・大倉喜八郎(1837〜1928)が1917年に設立した日本で最初の財団法人の私立美術館。設立当初の建物は1923年の関東大震災で焼失しており、現在の建物は東京帝国大学教授・伊東忠太の建築設計によって、1927(昭和2)年に竣工したもの。独特な中国風建築で、国の登録有形文化財となっている唯一無二の存在だ。

大倉集古館 撮影=編集部

 関東圏では、神奈川県・小田原市にある「小田原文化財団 江之浦測候所」も必見だ。ここは、現代美術家・杉本博司が構想から竣工まで20年以上の歳月をかけた巨大施設であり、杉本の「作品」。施設内には「光学硝子舞台と古代ローマ円形劇場写し観客席」をはじめ、杉本のこだわりが至る所に見られる。

光学硝子舞台 撮影=編集部

東海