2019.12.4

分断社会、芸術も連帯を。今年のターナー賞は4人の候補者が共同受賞

イギリスを拠点とする現代美術作家を対象とし、現代美術の世界でもっとも注目を集める賞のひとつ「ターナー賞」。その2019年の受賞は、最終候補者4人全員での共同受賞となった。

 

ターナー賞の最終候補者であり受賞者たち。左からオスカー・ムリーリョ、タイ・シャニ、ヘレン・カモック、ローレンス・アブ・ハムダン (C)Getty Images

 毎年世界から注目を集める現代美術のアワード「ターナー賞」。同賞は、ロマン主義を代表するイギリスの画家、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーにちなんで1984年にスタートしたもので、イギリス出身または拠点とするアーティストを対象に、イギリス現代美術の発展と議論を促すために設立された。

 これまで、アニッシュ・カプーアやアントニー・ゴームリー、ダミアン・ハースト、ヴォルフガング・ティルマンスなど、多数のアーティストが受賞してきたこのアワード。今年は史上初めて、最終候補者が全員で共同受賞することとなった。

 今年の最終候補者は、ローレンス・アブ・ハムダン、ヘレン・カモック、オスカー・ムリーリョ、タイ・シャニの4名。通常では、ここから1名が受賞者として選出されるが、今年はこの4名のアーティストたちが審査員に対し、共同受賞を呼びかけた。

 アーティストたちは審査員に書簡を送付。そのなかで、次のように表明した。「イギリスや世界の多くの国で政治的危機が生じている現在、人々や地域社会を分断し、孤立させるものがすでに数多く存在するなかで、芸術においても、私たちはこの賞の機会を使い、多様性や連帯の名の下に、共同受賞する意義を強く感じています」。

 今回の共同受賞は、このアーティストたちの意向を尊重したもので、共同受賞は満場一致で採択されたという。

 審査員長を務めたテート・ブリテン館長のアレックス・ファークハーソンは、今回の決定について、「今年のノミネートされたアーティストたちは団結し、自分たちをグループとすることで、審査員たちに多くのことを考えさせました」とコメント。「慣習に挑戦し、世界観の両極化に抵抗し、他者の声を擁護することは、彼らの仕事の精神に非常に近い。審査員は全員、このコレクティブがターナー賞の受賞者としてふさわしいと感じたのです」。

 なお、受賞者に贈られる賞金4万ポンドは4人でシェアされるという。