12月8日に幕を閉じたアメリカ最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(ABMB)」。今年のフェアでもっとも話題を呼んだのは、ペロタンのブースに出現した、マウリツィオ・カテランが本物のバナナを灰色のスコッチテープで壁に貼り付けた作品《Comedian》(2019)だろう。
カテランは、約1年前から同作のアイデアを考えており、旅行のたびにバナナを持ってホテルの部屋に飾った。最初は、バナナのかたちにした彫刻を考えていたが、樹脂やブロンズを使っていくつかのモデルを制作したあと、最終的には本物のバナナをそのまま作品にしたという。
フェアの初日には、同作のふたつのエディションが12万ドル(約1300万円)の価格で個人コレクターによって購入。3つ目のエディションは、15万ドル(約1600万円)で美術館が購入予約した。
『ニューヨーク・タイムズ』紙の報道によると、ABMBで展示されたバナナは、ペロタンがマイアミの食料品店で買ったものだという。作品が購入される際には、カテランによる証明書と設置マニュアルが添付される。
同ギャラリーの創設者エマニュエル・ペロタンは、「購入」はあくまで作品の一部で、「証明書がなれけばこの作品は物質的な表現にすぎません。誰かが買ったという事実が作品をつくるのです」と話している。
そんなバナナが、フェア閉幕の前日に事件に遭った。ニューヨークを拠点に活動するアーティスト、デビッド・ダトゥナがバナナを壁から剥がして食べてしまったのだ。ダトゥナは事件後、その行為を「Hungry Artist」というパフォーマンスと名付けて一連の動画をInstagramで公開。またこれらの投稿に「マウリツィオ・カテランの作品とそのインスタレーションが大好きです。とても美味しい」とコメントしている。
ダトゥナの行為に対し、ペロタンは法的責任を追求しないとしている。しかし翌日、フェアの最終日に、同ギャラリーは本作を撤去することを発表。その理由について、「来場者を制御できず、隣接するブースを含めて安全性が危ぶまれるからだ」と説明している。
エマニュエルは、本作について自分のInstagramでこう付け加えている。「単純な構成である《Comedian》は、最終的に私たちを複雑に反映するものとなりました。私はこの分水嶺のような作品を展示させてくれたマウリツィオに永遠の感謝を捧げます」。