・2019年末から拡大し始めた新型コロナウイルスの影響を受け、3月に予定されていたアジア最大のアートフェア「アート・バーゼル香港2020」が開催中止を発表。これを皮切りに、アートセントラル、アートフェア東京、フリーズ・ニューヨーク、アート・バーゼル、フリーズ・ロンドン、TEFAFニューヨーク、FIACなど、今年に開催予定だった大規模なアートフェアは相次ぎ開催中止を発表。いっぽうで、オンライン・ビューイング・ルームは別の盛り上がりを見せている。
>>アート・バーゼル香港、開催中止が決定。「新型コロナウイルスが状況を根本的に変えた」
・3月、アート・バーゼルとUBSが、2019年の世界美術品市場を分析するレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2020」を公表した。19年の世界美術品市場の規模は推計641億ドル(約6兆7500億円)で、市場の規模は前年比5パーセント減少。市場のトップ3はアメリカ、イギリス、中国。この3ヶ国のシェアは、世界美術品市場の82パーセントとなった。
>>2019年の世界美術品市場の規模は約6兆7500億円。ブレグジットや米中貿易戦争の影響で5パーセント減
・3月7日〜15日に開催を予定していたオランダのアートフェア「TEFAFマーストリヒト」が、出展者のひとりが新型コロナウイルスに感染したため、11日をもって急遽閉幕した。同じく3月に開催予定だった世界中のアートフェアでは、アラビア半島最大級のアートフェア「アート・ドバイ」(3月25日〜28日)が中止となったいっぽうで、ニューヨークの「アーモリー・ショー」「Art on Paper」「Clio」「SCOPE」(いずれも3月5日〜8日)などのアートフェアは開催を決行した。
>>出展者が新型コロナに感染。アートフェア「TEFAFマーストリヒト」が急遽閉幕
・新型コロナウイルスの感染拡大がギャラリーに与えている影響について、アメリカのアートディーラー協会(ADAA)が国内の主要ギャラリーを対象に実施した調査報告を発表。5月の時点では、今年第1四半期でアメリカ国内のギャラリーの収益は31パーセント減という数字となった。また雇用については、正社員では15パーセントが、契約社員では74パーセントが休業したという。
>>新型コロナでアメリカのギャラリーに大打撃。収益は73パーセント減
・7月10日、クリスティーズが香港、パリ、ロンドン、ニューヨークの4都市でライブ・オークション「ONE:a Global Sale of the 20th Century」を開催。合計落札総額は4億2094万1042ドル(約449億円)を達成し、同社のライブ・オークションの過去最高額を記録した。ロイ・リキテンスタインが1994年に制作した絵画《Nude With Joyous Painting》(1994)は、4624万4250ドル(約49億3000万円)の落札価格でセールを牽引。バーネット・ニューマンやブライス・マーデンの作品も3000万ドルを超えた価格で落札された。
>>クリスティーズ、世界4都市同時開催のライブ・オークションで落札総額約449億円を達成
・7月28日にロンドンのサザビーズで開催されたイブニング・セール「Rembrandt to Richter」では、バンクシー本人によって出品された、2010年代のヨーロッパ難民危機を題材にした3点組の油彩画《Mediterranean sea view 2017》が、予想落札価格の約3倍である約3億円で落札。得られた収益はパレスチナ・ベツレヘムのBASR病院に新しい急性脳卒中治療ユニットの建設や子供のリハビリ機器の購入資金として寄付されることが明らかにされた。
>>バンクシーの油彩3点組、予想を大きく上回る3億円で落札。収益はベツレヘムの病院に寄付
・また7月28日に行われた上述のセールでは、レンブラントが1632年に描いた自画像が約20億円で落札。レンブラントの自画像は、41点しか現存しない。個人所蔵はわずか3点で、今回出品されたのはそのうちの1点だった。6月29日に香港、ロンドン、ニューヨークで同時開催されたライブ・オークションなどに加え、サザビーズのサマーセールでは約11億ポンド(約1493億円)の落札額を達成した。
>>レンブラントの自画像が約20億円で落札。サザビーズのイブニング・セールが約204億円の総売上高を達成
・サザビーズは7月、2020年上半期(1月1日〜7月31日)の売上高を発表。25億ドル(約2640億円)という数字は、19年上半期の33億ドル(約3585億円)から25パーセントの減少となった。新型コロナウイルスの影響で、サザビーズやクリスティーズなどのオークションハウスは今年、セールの延期またはオンラインへの移行を余儀なくされた。その結果、サザビーズのオンライン・セールは前年同期比で540パーセント増加しており、前年全体の3倍にあたる2億8500万ドル(約301億円)に達した。
>>サザビーズが2020年上半期の売上高を発表。オンライン伸びるも前年比約25パーセント減
・アート市場分析会社「ArtTactic」は7月、2020年上半期(1月1日〜7月11日)のオークション市場の分析レポートを発表。同レポートによると、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスといったオークション・ハウスの3巨頭の売上高は、19年上半期の57億ドル(約6020億円)から約50パーセント減少し、28億8000万ドル(約3063億円)となった。全体の売上高が激減しているにもかかわらず、オンラインでの売上高は前年同期の6900万ドル(約73億円)から497パーセント増加し、4億1260万ドル(約436億円)となった。
>>2020年上半期、世界主要オークションハウスの売上高は昨年比50パーセント減。オンラインは500パーセント増
・アート・バーゼルとUBSは9月、ギャラリーに対する新型コロナウイルスの影響を分析する2020年中期調査を発表。60ヶ国以上、795のギャラリーを対象としたこの調査によると、今年ギャラリーの売上高は前年より平均で36パーセント減となった。いっぽう、売上高全体やアートフェアでの販売シェアが大幅に下がったことに対し、オンライン販売のシェアは4倍近くに拡大。また、ミレニアル世代やジェネレーションX世代のコレクターは、ギャラリーの売上にますます重要になっている。
>>コロナ禍でギャラリーの売上高は平均36パーセント減。オンライン販売とミレニアル世代コレクターがより重要に
・9月、アートギャラリーの集積地として知られる東京・天王洲の「TERRADA ART COMPLEX」に隣接するかたちでオープンした「TERRADA ART COMPLEXII」。ここを舞台に、コロナ禍以来国内初めての大規模なアートフェア「artTNZ」が開催。TERRADA ART COMPLEXIIの4階と3階を会場として使用したフェアには、タカ・イシイギャラリーや小山登美夫ギャラリー、TARO NASU、KOSAKU KANECHIKA、MAHO KUBOTA GALLERYなど計42軒のギャラリーが出展。なお、4階の展示の様子は、artTNZのウェブサイトにてVRでの展示も実施された。
>>TERRADA ART COMPLEXⅡで新たなアートフェア「artTNZ」が開幕。42のギャラリーが出展
・昨年12月のアート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(ABMB)でマウリツィオ・カテランが発表し、物議を醸した作品《Comedian》が、匿名のコレクターによってグッゲンハイム美術館に寄贈された。1本のバナナを灰色のスコッチテープで壁に貼り付けた本作は当初、3つのエディションが12万ドル(約1300万円)〜15万ドル(約1600万円)の価格で売却。寄贈された作品にはバナナとテープが含まれていないが、作品の購入証明書や、バナナの取り付け方や飾り方を図付きで書いた取扱説明書が添付されている。
>>カテランの「バナナ」がグッゲンハイム美術館に収蔵。匿名コレクターによる寄贈
・9月24日〜10月1日にサザビーズで開催されたオンライン・オークション「Dear Keith:Works from the Personal Collection of Keith Haring」では、アメリカのグラフィティ・アーティスト、キース・ヘリングの個人コレクションから出品された144点の作品がすべて落札され、最高予想落札価格の140万ドルの3倍以上となる460万ドル(約4億8600万円)の売上を記録した。収益の全額は、ニューヨークのLGBTQコミュニティを支援する団体「ザ・センター」に寄付されることも明らかにされた。
>>落札率100パーセント。キース・ヘリングの個人コレクションが約4億8600万円の売上を達成
・10月6日にサザビーズ香港で行われた現代美術セールに出品されたゲルハルト・リヒターの《Abstraktes Bild (649-2) 》(1987)が、箱根のポーラ美術館によって約30億円で落札。当初の予想落札価格が16億〜19億円だった同作をめぐり、10分間もの入札合戦が繰り広げられたという。この落札価格は、アジアにおけるオークションで落札された欧米作家作品の過去最高額を更新した。また10月の時点では、ポーラ美術館は同作の展示予定について「未定」としている。
>>ポーラ美術館、30億円のゲルハルト・リヒター作品を落札。アジアにおける欧米作家作品の最高落札額
・新型コロナウイルスの影響で大規模な国際アートフェアが相次ぎ中止となっているなか、中国本土最大級のアートフェア「ウェストバンド・アート&デザイン」と「アート021」が、11月にリアルな会場で開催。中国で実施されている厳格な入国制限にもかかわらず、参加ギャラリーにはガゴシアンやハウザー&ワース、ペース、ペロタンなどのメガギャラリーが含まれており、中国のアートマーケットは、新型コロナウイルスによる景気の悪化に影響されず、上向きの勢いを示した。
>>上海の「ウェストバンド・アート&デザイン」が規模縮小で開催へ。ガゴシアンやハウザー&ワースも参加
>>ポストコロナ時代のアートフェアはどうあるべきか? アート021の事例から考察する