世界最大級のアートフェア「アート・バーゼル」とスイス最大の銀行「UBS」が、2019 年の世界美術品市場を分析するレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report 2020」を公表した。
19年、世界美術品市場の規模は推計641億ドル(約6兆7500億円)。2年連続の成長を遂げたあと、市場の規模は前年比5パーセント減少し、17年の637億ドル(約7兆5000億円)をわずかに上回る数字となった。
美術品市場全体ではアメリカが圧倒
市場トップを占めるアメリカ、イギリス、中国のシェアは、前年比2パーセント減の82パーセントになった。
アメリカは依然として世界最大の美術市場。売上高は推定283億ドル(約3兆円)で、前年比16億ドル減少したが、シェアは44パーセントでその優位は変わらない。イギリスと中国は、それぞれのシェアが減少し、20パーセント(127億ドル=約1兆3500億円)と18パーセント(117億ドル=約1兆2300億円)を占めている。減少の原因は、イギリスのEU離脱や米中貿易戦争にあると考えられている。
いっぽう、イギリスのEU離脱から利益を得たのはフランスだ。フランスは、下落傾向に歯止めをかける主要市場となった。売上高は7パーセント増の42億ドル(約4400億円)で、世界シェアは6パーセントから7パーセントに上昇している。
ギャラリーの課題は新規顧客の開拓
ギャラリーでの総売上高は、前年比2パーセント増の368億ドル(約3兆9000億円)に達した。ギャラリー間の業績を見ると、売上高が25万〜50万ドル、100万〜1000万ドル、3000万ドル以上のギャラリーの売上は、それぞれ17パーセント、8パーセント、16パーセント増加。いっぽう、売上高が25万ドル以下、50万〜100万ドル、1000万〜3000万ドルのギャラリーの売上は、それぞれ6パーセント、9パーセント、4パーセント減少した。
ギャラリーにとって今後最大の課題は、新規顧客の開拓だと指摘。例えば、売上高が50万ドル未満のギャラリーにとっては、新規顧客による購入が40パーセントを占めている。売上高が1000万ドル以上のギャラリーでは、売上の26パーセントは新規顧客だ。また、新規顧客による購入比率は、前年比5パーセント増加で34パーセントになった。
また、一次市場(プライマリーマーケット)のギャラリーで取り扱われる女性アーティストの増加もひとつの傾向だ。その割合は前年比8パーセント増の44パーセントとなり、売上高も2018年の32パーセントから40パーセントに増加した。
下落幅大きいオークション
パブリックオークションでの売上高は、17パーセント減の242億ドル(約2兆5500億円)となった。オークション市場トップ3で84パーセントのシェアを占めているアメリカ、中国、イギリスでは、それぞれ23パーセント減の90億ドル(約9500億円)、16パーセント減の71億ドル(約7500億円)、20パーセント減の43億ドル(約4500億円)と2桁の減少を示した。しかし、フランスの売上高は16パーセント増の16億ドルを超え、オークション市場におけるシェアは7パーセントとなった。
オークション市場が縮小した主な原因は、超高価作品の出品数が減少したことだとされている。パブリックオークションでの売上高は減少したが、いっぽうでプライベートオークションでの売上高は増加したという。
また、戦後と現代美術の部門の売上高は、61億ドル(約6500億円)で53パーセントのシェアを占めている。近代美術とオールドマスターズの部門は、それぞれ29億ドル(約3000億円)と8億4300万ドル(約900億円)の売上。
依然として存在感強いアートフェア
アートフェアは依然として世界美術市場の中心だ。2019年、アートフェアでの総売上高は前年比約1パーセント増の166億ドル(約1兆7500億円)に達した。今年のレポートでは、アートフェアでの売上の時間分布も明らかにされている。
売上の15パーセント(25億ドル=約2700億円)と64パーセント(106億ドル=約1兆1000億円)は、フェア前とフェア中に計上されており、フェア後には、さらに21パーセント(35億ドル=約3700億円)の売上が発生。こうしたフェア後の売上は、ギャラリーがフェアに参加する直接の要因となっているという。
ギャラリーは昨年、年間平均4つのフェアに参加。そのうち、年間売上高が1000万ドルを超えるギャラリーは、平均8つのフェアに参加している。売上高が50万ドル未満のギャラリーによるフェア出展数の2倍以上だ。
小規模事業者にとって欠かせないオンラインセール
5年以上連続して増加してきたオンライン美術品市場は、前年比2パーセント減で59億ドル(約6200億円)の規模。美術品市場全体の9パーセントとなった。
とくに、オンラインセールスは小規模なオークションハウスやギャラリーにとって非常に重要だ。売上高が100万ドル未満のオークションハウスとギャラリーは、それぞれ売上高23パーセントと12パーセントをオンラインで得ている。それに対し、売上高が1000万ドル以上のオークションハウスとギャラリーはオンラインで、それぞれ4パーセントと1パーセントの売上しか得ていない。
また、富裕層のミレニアル世代のコレクターでは、92パーセントがオンラインで作品を購入した経験を持ち、8パーセントの富裕層コレクターは昨年、オンラインで100万ドル以上を費やしたという。
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2019年の世界美術市場について、本レポートの著者でアーツ・エコノミックズの創設者であるクレア・マカンドリューは、「国際的な芸術の流れは現在、貿易規制や関税の引き上げから、環境への影響を軽減するためにより地元での購入を推進することまで、様々な課題に直面している」とコメント。「美術市場のグローバル化は、過去20年間にわたる拡大の鍵であり、買い手と売り手のより多様な基盤の支援を通じて、そのリスクを軽減してきた。これらの傾向は短期的には問題にならないと思われるが、国境を越えた売買を妨げる関税や規制の増加は、将来の市場の成長にマイナスの影響を与える可能性がある」。