2017年より毎年の世界美術品市場を分析するレポートを公表してきたアート・バーゼルとUBSが、新型コロナウイルスがギャラリーにもたらした影響を分析する2020年中期調査「The Impact of COVID-19 on the Gallery Sector」を発表した。
調査対象は60ヶ国以上、795ギャラリー。そのうち、ヨーロッパのギャラリーは59パーセントを占めており、アメリカのギャラリーは18パーセントで、単一の国ではもっとも多くの回答を得ている。また、55パーセントのギャラリーは、前年度の年間売上高が100万ドル未満で、年間売上高が100万〜500万ドル、500万ドル〜1000万ドル、1000万ドル以上のギャラリーは、それぞれ27パーセント、9パーセント、9パーセントを占めている。
ギャラリーの売上高全体では36パーセント減
今年の上半期には、ギャラリーの売上高は昨年同時期比平均で36パーセント減。そのうち、昨年の年間売上高が25万〜50万ドルと25万ドル未満の小規模なギャラリーは、それぞれ47パーセント減と39パーセント減と最大の下げ幅となった。
また地域別に見ると、アジアのギャラリーは平均よりも高い41パーセントの減少を示しており、とくに中華圏のギャラリーは55パーセントの減少。いっぽう、地域別の減少率がもっとも低かったのは、南米(15パーセント減)とアフリカ(21パーセント減)のギャラリーだった。
今年全体の見通しとしては、79パーセントのギャラリーは売上高の減少が続くと考えており、半数以上の58パーセントは大幅に下がると予想。2021年に対して楽観的な見方を示すギャラリーもあるが、それでも今年と比べて売上が増加すると予想したのは45パーセントにとどまった。
いっぽう、ギャラリーの売上高におけるオンライン販売のシェアは昨年の10パーセントから今年上半期の37パーセントに拡大。また年間売上高が500万ドル以上のギャラリーは、これまでオンライン販売のシェアがもっとも低かったが、今年上半期にはそのシェアが約5倍に上昇した。
その要因は、新規オンライン購入者の増加にあると考えられている。今年上半期には、オンライン購入者のうち55パーセントは初めてオンラインを利用した顧客で、そのうちの26パーセントはこれまでギャラリーと対面で接触したことがない顧客だった。
下落幅大きいアートフェア
新型コロナウイルスの影響で世界中のアートフェアが相次ぎ中止となり、ギャラリーの売上にも大きな影響を与えた。19年にアートフェアでの販売がギャラリーの売上高の46パーセントを占めていたのに対し、今年前半にはその割合が16パーセントに激減している。
今後の見通しについて、91パーセントのギャラリーが今年後半にはアートフェアでの販売は改善しないと予測しており、2021年に増加すると考えているのは3分の1にとどまった。
いっぽうアートフェアの中止により、ギャラリーの総支出のなかで最大の要素だったアートフェアへの出展料は今年上半期にほぼ半減。スタッフの旅費も3分の1以上削減された。これが、売上減少をある程度補填したと考えられている。
ギャラリーの3分の1はスタッフを解雇
新型コロナウイルスに関するもうひとつの懸念は、ギャラリーの雇用への短期的・長期的な影響だ。今回の調査対象となったギャラリーの3分の1は、今年前半にスタッフを解雇。そのうち、売上高が25万〜50万ドルと1000万ドル以上のギャラリーは、それぞれ38パーセントと37パーセントがスタッフ解雇をしていた。
地域別では、アフリカ(42パーセント)、ドイツとスペイン(38パーセント)、英国(36パーセント)に拠点を置くギャラリーは平均より多く解雇しているが、一部のギャラリーはスタッフ数の増加を報告。アジア(韓国、シンガポール、日本)やオーストラリアのギャラリーは最大の増加を示している。
同地域のギャラリーは、コレクターが旅行できなかったため、地元のギャラリーとそのプログラムにより関心が集まったことが一助となったと指摘している。
ミレニアル世代コレクターがますます重要に
今回の調査では、アメリカ、イギリス、香港に拠点を置く360人の富裕層コレクターからも回答を収集した。
92パーセントのコレクターが今年に入ってから作品を購入。そのうち、ミレニアル世代のコレクターは高額支出者において最大の割合を占めており、17パーセントが半年に100万ドル以上を投じた。
また、99パーセントのミレニアル世代のコレクターと94パーセントのジェネレーションX世代のコレクターは、コロナ禍でギャラリーに積極的に協力していると回答。コレクター全体の81パーセントは、価格の透明性といったオンライン・プラットフォームの特性を高く評価している。
ギャラリーに最大級の試練
今回の調査について、その著者でアーツ・エコノミクスの創設者であるクレア・マカンドリューは、「美術品市場はたびたび発生する広範な経済的・政治的な出来事に対して回復力を示してきたが、2020 年のパンデミックは美術品市場、とりわけギャラリー・セクターにこれまでで最大級の試練を与えた」としながら、次のように述べている。
「オンラインを通じて取引を継続していく方法を見出したとはいえ、パンデミックは事業に深くて重大な影響を与え、これからも与え続けるだろう。既に廃業したギャラリーもあれば、多数の従業員の自宅待機あるいは解雇に踏み切ったギャラリーもある。営業を続けるギャラリーへの影響はまだ収束していない。危機はこうした悪影響をもたらすと同時に、市場における再構築とイノベーションのまたとない機会にもなり得る」。
また、この調査の意義についてマカンドリューはこう続ける。「この調査は、今般のCOVID-19危機の影響、それに対応するための戦略、そして、この危機がセクターにもたらす変化を理解するための初めての試みだ。このレポートはさらに、市場のトレンドの推移を追跡するうえで必要な情報を提供している」。