「UESHIMA MUSEUM」が開館。屈指の現代美術コレクションを一般公開

現代アートのコレクター・植島幹九郎によって設立された「UESHIMA COLLECTION」の収蔵品を紹介する「UESHIMA MUSEUM」が、6月1日に開館する。それを前に、内部が公開された。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、オラファー・エリアソン《Eye see you》(2006)

 日本には様々なビッグコレクターがいるが、いまもっとも注目すべきは植島幹九郎かもしれない。事業家・投資家として多彩な顔を持つ植島が2022年2月に設立した現代美術コレクション「UESHIMA COLLECTION」を紹介する「UESHIMA MUSEUM」が、6月1日に渋谷にオープンする。

UESHIMA MUSEUM 画像提供=UESHIMA MUSEUM

 植島は1979年千葉県生まれ。1998年渋谷教育学園幕張高等学校卒業、東京大学理科一類入学。同大工学部在学中に株式会社ドリームキャリアを設立し、現在は同社代表取締役会長を務めるほか、多数の肩書きを持つ事業家・投資家だ。

 そんな植島がコレクションを本格化させたのは2022年のこと。それ以前も装飾目的で作品を購入していたが、空間がすべて埋まった後に作品収集を一旦休止しており、ここ数年で事業の拡大に伴いオフィスの空間が増えたことに伴い、作品収集を再開したという。その後、コレクションした作品点数は670点という驚異的な数に達している。

 満を持してオープンするUESHIMA MUSEUMは、植島の出身母校でもある渋谷教育学園の敷地内に位置。1988年に設立されたブリティッシュ・スクール・イン・東京の跡地に立つ。フロアは地下1階から地上6階までの7フロア。UESHIMA COLLECTIONから、様々なテーマに沿って選び抜いた作品が並ぶ。

 植島は「作品をコレクションするなかで、当初からウェブサイトで公開するなど、世界中の人と共有したいという思いがあった」と話しており、文化教育を担ってきたビルをリノベーションすることで、公共的な側面を持つ美術館としてオープンさせた。また展示アドバイザーを務めた山峰潤也は、植島のコレクションについて、「個人のアートに対する愛情から構成されているコレクション」と評する。

 ではUESHIMA MUSEUMの詳細をフロアごとに見ていこう。

植島幹九郎

地下1階

 もともと体育館だった地下1階は、もっとも天井高がある空間。「絵画における抽象ーその開拓精神」をテーマに、ゲルハルト・リヒター、カタリーナ・グロッセ、オスカー・ムリーリョ、ローレン・クイン、ベルナール・フリズ、ミシェック・マザンヴなど、様々な平面を中心に構成されている。ここでは、植島が現代美術に興味を持ったきっかけとなったリヒターによる作品《Abstrakte Skizze (Abstract Sketch)》(1991)も、キーピースとして展示されている。同作は、リヒターのもっとも重要なシリーズである「Abstrakte (Abstract)」の一点だ。

展示風景より、ゲルハルト・リヒター《Abstrakte Skizze (Abstract Sketch)》(1991)
展示風景より、手前はアニー・モリス《Stack 7, Ultramarine Blue》(2018)
展示風景より、手前からカタリーナ・グロッセ《o.T.》(2013)、《untitled》(2022)

1階

 エントランスがある1階には、名和晃平の「PixCell」シリーズ、ミカ・タジマ(田島美加)による大型作品3点、そして岡﨑乾二郎の作品が展示。とくに彫刻は岡﨑の原点とも言えるが、ここでは2024年に制作されたばかりの新作を見ることができる。

展示風景より、中央が田島美加《You Be My Body For Me(Unit 3)》(2020)
展示風景より、岡﨑乾二郎の作品群

2階

 2階は「同時代の表現、個の表現」。ライアン・ガンダー、トレイシー・エミン、ルイーズ・ブルジョワといったスター級のアーティストがラインナップされており、作家によっては個別のギャラリーで展示されている。

 例えばオラファー・エリアソンの《Eye see you》(2006)は、すべての可視光を黄色に塗り替えるインスタレーション。2003年にロンドンのテート・モダンで展示された「The weather project」を参照し、館内の展示室壁面を合わせ鏡にし、無限に増幅する光のインスタレーションとして構成された。

展示風景より、オラファー・エリアソン《Eye see you》(2006)

 そのほか、ダン・フレイヴィンチームラボ池田亮司塩田千春、そしてシアスター・ゲイツなども、それぞれ区切られた部屋の中で鑑賞できる。またフロアの中央を貫く通路の両端は、アンドレアス・グルスキーとトーマス・ルフというベッヒャー派を代表する作家が対比的に展示されているのが特徴的だ。

展示風景より、ダン・フレイヴィン《untitled(for Ad Reinhardt)1b》(1990)
展示風景より、チームラボ《Matter is Void - Fire》(2022)
展示風景より、池田亮司《data.scan [n°1b-9b]》(2011/22)
展示風景より、塩田千春《State of Being(Skull)》(2015)と《State of Being(Two Chairs)》(2012)
展示風景より、シアスター・ゲイツ《Slaves, Ex Slaves》(2021)、《Night Stand for Soul Sister》(2013)、《Walking on Afroturf》(2012)
展示風景より、中央はトーマス・ルフ《Substrat 7 Ⅲ》(2022)
展示風景より、左はアンドレアス・グルスキー《Bangkok Ⅸ》(2011)

3階

 3階は「女性画家のまなざし」がテーマ。今津景今井麗近藤亜樹津上みゆき工藤麻紀子という比較的世代の近い日本人アーティストの平面作品が並ぶ。

展示風景より、今津景《Drowsiness》(2022)、《Mermaid of Banda Sea》(2024)
展示風景より、工藤麻紀子《あの時1人でたのしかった / I had a Good Time All by Myself This Time》(2022)

4階

 「変わるもの、消えゆくもの」をテーマにした4階は、まずさわひらきによる映像作品《/home,/home(absence)》(2021)が広い空間で展示される。同作は、「/home」と「/home (absence)」という対あるいは表裏となる2つの映像作品で構成されたもの。「家」という営みに関する痕跡と残響を静かに伝える。

 これに関連するように、宮島達男宮永愛子三嶋りつ惠による作品も同フロアに展示され、変化や揺らぎ、儚さなどでつながりを見せる。

展示風景より、さわひらき《/home,/home(absence)》(2021)
展示風景より、宮永愛子《くぼみに眠るそら-寝虎-》(2022)、三嶋りつ惠《FENICE》(2023)

5階

 5階は松本陽子のみを紹介するフロアだ。松本は1936年東京都生まれ。60年に東京藝術大学美術学部油画科を卒業し渡米。当時、ニューヨークを席巻していた抽象表現主義やカラーフィールドの作家たちのよる作品と出会い、影響を受けた。松本の精神性を具現化する「ピンク」のシリーズのほか、「黒」「グレー」「水彩」「緑」など様々な作品を手がけてきた松本は、近年再評価の機運が高まっている。ここでは新作を含む5点の中型・大型絵画が並ぶ。

展示風景より、松本陽子《振動する風景的画面》(2017)と《熱帯》(2021)
展示風景より、松本陽子《The Day I Saw the Evening Star》(2023)

6階および階段

 6階のエグゼクティブ・スイートは一般非公開だが、加藤泉草間彌生杉本博司奈良美智、奈良祐希の9作品が展示。またフロアをつなぐ階段の踊り場は、杉本の写真作品が飾る。

6階のエグゼクティブ・スイート
今後整備予定の6階エリアに置かれた奈良美智《No Nukes》(2022)
階段には杉本博司の作品が展示

 今回展示されたのは、膨大な植島コレクションのごく一部。今後は半年から9ヶ月程度の周期で展示替えも予定されているという。また、作品展示のみならず、若い作家への支援機会の創出、教育機関との連携などを含めて、次世代のアーティスト、若手キュレーター、批評家の育成に向けた様々なプログラムの展開も見据える。「ミュージアム」を冠する施設を設立したコレクターが、今後社会と接続する活動を積極的に展開することに期待したい。

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