「気候危機とアートのシンポジウム アートセクターはどのようにアクションを起こせるか」レポート
世界の美術館の動向と「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」での試み
休憩を挟んで後半は、パネルディスカッション。
壇上には片岡真実(森美術館館長/国立アートリサーチセンター長)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館館長)、菊竹寛(Yutaka Kikutake Gallery代表)、相澤邦彦(ヤマト運輸株式会社<美術>コンサヴァター)が並ぶ。
最初のパネラーは、森美術館館長の片岡真実。取り上げたのは、世界各国の美術館の気候危機に関する動向と、森美術館での取り組みについて。2022年8月にICOM(国際博物館会議)のプラハ大会では、新しい「ミュージアムの定義」として「一般に公開され、誰もが利用でき、包摂的であって、多様性と持続可能性を育む」というフレーズが盛り込まれた。「これは美術館が芸術的な機能だけでなく、社会的な役割を果たす場所だと定義されたということ。環境への影響を意識し、どのように美術館運営をしていくのかが世界的に求められている」と片岡は語る。
また、世界の主要大型美術館の館長による非公開グループ・BIZOTでは、2014年の「BIZOT G reen Protocol」を、さらに2023年に更新版を発表。ここで美術館が環境問題に対し、長期的に持続可能な方法でどう取り組むか、という基本概念を改めて制定。そのなかで「美術館はコレクションの長期保全と、エネルギー使用量および二酸化炭素排出量の削減の必要性を両立させる手段を模索するべき」(片岡)と示されている。
作品管理の温度と湿度については「40から60パーセントの範囲で安定した相対湿度、16から25°Cの安定した温度の範囲内で、24時間あたり±10パーセントRH以下の変動が望ましい」と設定。「世界の大きな動向に合わせて日本の美術館も気候危機へ対応していかないと、海外の美術館から作品を借 りることができなくなる可能性もある」(片岡)と警鐘を鳴らす。
続いて、森美術館で2023年10月から2024年3月にかけて開催された企画展「私たちのエコロジー:地球という惑星を生きるために」の事例へ。「サステナビリティについて、できる限りのことをすべてしてほしい」(片岡)と会場デザイン担当者へ依頼し、これまでリサイクルの難しかった石膏ボードを100パーセントリサイクル可能なものへと変えたり、あえて未塗装の壁を立てることで、来場者への意識喚起を行ったとのこと。
「エコロジー展」後、GCCの発表している二酸化炭素の計算表を使って、実際に企画展での二酸化炭素排出量を計算したところ、電気などのエネルギー消費による二酸化炭素排出量が割合として多いことが判明。森美術館の入っている六本木ヒルズは、100パーセント再生可能エネルギーを利用しているため、エネルギー消費の部分には対応できているようだ。
では、残る部分で何ができるか。じつは二酸化炭素排出量のうち、99パーセント以上が来場者に関連するもので、つまり人の移動に関わる二酸化炭素排出がほとんど。これは次の大きな課題として、まず現実的にできることから対処すべきとし、廃棄物をほぼ出さずに実施できた「エコロジー 展」以降も、「毎回作家に従ってもらうことは難しいかもしれないが、美術館としてポリシーを示すことは重要だ」と片岡は述べ、模索を続けたいと語った。