ゴッホを学ぶためのおすすめ書籍13選

今年から3年をかけて開催される「大ゴッホ展」をはじめ、2025年にはいくつかのフィンセント・ファン・ゴッホの展覧会が予定されている。せっかくならば、展覧会をより楽しむための予習・復習におすすめの本や映像を3回に分けて紹介。第1回はおすすめの書籍をセレクト。

文=坂本裕子

 クレラー=ミュラー美術館の名品が来日する「大ゴッホ展」、ファン・ゴッホ美術館の過去最大数の作品や資料で追う「ゴッホ 家族がつないだ画家の夢」が日本を巡回する2025年。世界の二大コレクションをまとめて見られるのみならず、国内でゴッホの秀作を所蔵するポーラ美術館でも「ゴッホ・インパクト―生成する情熱」が始まった。ゴッホ・イヤーともいえるこの機会、あらためてゴッホについて学んでみたい。まずは読んで「知る」書籍を紹介する。

日本におけるゴッホ論

 日本でも人気の高いゴッホについては翻訳も含め多くの本が刊行されているが、日本の研究者によるゴッホの著書から主要なもの、比較的入手しやすいものを紹介する。

『ゴッホの眼』高階秀爾著(青土社)

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 いわずと知れた美術史の大家・高階秀爾の1冊は押さえておきたい。アルルから最期の地オーヴェール=シュル=オワーズ時代のゴッホの作品と遺された手紙の精緻な解読から、激しい創作に駆り立てられる画家の孤独な人生を浮かび上がらせながら自殺とされるピストル射撃の謎をひもとく手腕は見事。1984年の評論が新装版で復刊されている。

『ファン・ゴッホ 日本の夢に懸けた画家』国府寺司著(角川ソフィア文庫)

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 日本におけるゴッホ研究の第一人者による文庫本。2017年から18年に開催された展覧会『ファン・ゴッホ 巡りゆく日本の夢』の日本側の監修として、ゴッホにおける日本と、日本におけるゴッホ受容の実態を検証した内容が反映され、主要作品もカラー掲載のハンディながら充実の内容となっている。現在は電子のみの提供だが、この研究者のゴッホ論は、1冊は読んでおきたい。

『ファン・ゴッホ詳伝』二見史郎著(みすず書房)

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 1950年代からゴッホ書簡の翻訳に携わってきた近代西洋美術研究者による書下ろしの伝記。その経験は、手紙の引用と著者の本文を一体にすることで物語のように「人間ゴッホ」の心理を浮かび上がらせる。ゴッホの近親者が幕末の日本に滞在していた事実や、ハーグに日本人留学生が浮世絵をもたらしていたことなどにも言及され、若き日のゴッホの環境が感じられるのも興味深い。

『ゴッホと〈聖なるもの〉』正田倫顕著(新教出版社

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 ゴッホに関するフィールドワークにも従事した気鋭の研究者による新たなゴッホ論。ゴッホには900通もの手紙が遺されており、画業の研究には稀有な資料として重視されるいっぽう、その内容に縛られる弊害も指摘される。著者は手紙に書かれていない、書けなかったものを「聖なるもの」として、作品に込められた“何か”を読み解いていく。伝道師になれなかったゴッホの、キリスト教を超えた宗教性を作品に見出した意欲作。

 なお、ゴッホを宗教的人間としてとらえて改めて作品の世界観を追う『ゴッホの宇宙』(教文館)も最近刊行されている。

『ゴッホ〈自画像〉紀行』木下長宏著(中公新書)

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 ゴッホは自画像を多く描いたことでも知られる。しかし、それらはパリ滞在からアルルにおける「耳切り事件」までの短い期間に集中しており、初期と晩年には描かれていない。「自画像」に注目して彼の画業を3期に区切り、引用される手紙の言葉も著者自身の翻訳で、自画像の変遷を通してゴッホの想いや創作に迫る。「炎の画家」や「狂気」から語られ、理解されたようにとらえられる日本のゴッホ像に疑義を呈し、作品から丹念に思想を読み取っていく。読後には異なるゴッホの姿を見られるかもしれない。

 本書に先んじて、ゴッホの全自画像と手紙の言葉、さらには詩人の中原中也や斎藤茂吉、哲学者 マルティン・ハイデガーやフランス文学者 アントナン・アルトーらの言葉を添えた画集『ゴッホ自画像の告白』(二玄社)も刊行されている。こちらもおすすめだ。

編集部