アートセクター当事者の対話から浮かび上がる課題たち
ディスカッションは、AITの堀内奈穂子による各パネラーへのリサイクル/リユースに関する 取り組みへの質問からスタート。
大小サイズの異なる企画展示室を3つ持つ十和田市現代美術館では、鷲田館長の就任以降、仮設壁を立てたことがないといい、会場からは驚きの声が上がりる。
菊竹は、平面作品の梱包について解説。古来日本では防虫のためにウコンで染めた黄袋を利用しており、なぜか現代でもそのかたちだけが引き継がれ黄色いコットンの袋が使われること多数。効果はないため、Yutaka Kikutake Galleryではビニールシートを使い、汎用性の高い箱を用いているとのこと。
次第に議論は徐々にパネラー同士の対話へ。ともに美術館館長という立場から、鷲田と片岡のあいだでは、悩ましい来場者の二酸化炭素排出量が話題に。
「県外から来られる方も多いが、町で食事や宿泊をすることで、地域への経済効果もある。それは住み続けられるまちづくりにもつながる。どこに重きを置くべきかが重要だろう」(鷲田)。
「来場者に来てもらうことも、人を通じて国際的に文化交流を行うことも大切。社会的な営み、人間的な営みをどうしたら良いかたちで持続することが可能なのか。そのモデルを探りたい」(片岡)。
また相澤には、輸送手段についての質問が集まった。
「使い捨て前提の木箱をどうにかシェアしてリユースできないか」と言う菊竹と「額縁や展示台の廃棄問題も大きい。リユースする手段はないか」と言う片岡の質問に対しては 「どちらも保管場所の問題がつきまとう。虫カビの害や箱の急速な劣化などのリスクを考えると半屋外のような倉庫に置くわけにもいかず、ジレンマを感じている。なかなか『これだ』という方法が見つけにくいのが現状」と相澤は答え、現実的な課題が浮上した。
ここで、これまで議論を傾聴していた茅野が発言。
社会の変化をパッシブに受け取るだけでなく、アクティブに感じ取っているのがアートの特徴だと述べ、とくに菊竹の紹介したアーティスト両名の試みから、社会の変化を先取りするような刺激を受けたとのこと。
「社会のなかのアートから、社会と対話するアート、そして社会と協働するアートへ。それを今後も期待したい」と言う茅野。いまはまだ取り組むことが難しい課題について、アートセクターから「こういった課題に取り組みたい」という意志をステートメントとして発表することが、科学者や研究者がイノベーションを起こすべき方向性を定める指針づくりにつながると提言した。
気候危機については、ここからの10年が正念場。この10年で取り組みが停滞すれば「ゼロカーボン達成は無理だった」というムードが政治的にも経済的にも蔓延し、モラルハザードが起こりかねない。「それだけは個人的に避けたいんです」と茅野は声を強める。
「いまはどちらに転んでもおかしくない、地球の節目。『明日から頑張ろう』ではなく、『誰しもががんばれる』仕組みが必要なんだ。我慢するのではなく、ポジティブな変化と仕組みを生み出すこと。アートはそのアイディアをくれるはず」(茅野)。
そんな力強い発言に呼応するように、ロジャーが「アートは一方的で支配的に進む経済成長とは違うモデルで動いている。アートとは何かを再確認することで、未来へ向かうヒントが得られる気がします」と語り、ディスカッションが終了した。