• HOME
  • MAGAZINE
  • SERIES
  • アートと気候危機のいま vol.7「気候危機とアートのシンポジウム…

アートと気候危機のいま vol.7「気候危機とアートのシンポジウム アートセクターはどのようにアクションを起こせるか」レポート(後編)【4/6ページ】

作品の一回性と公共性を配慮しつつ輸送/保存行為に向き合う

 最後のパネラーは、ヤマト運輸株式会社(美術)コンサヴァターの相澤邦彦。以前は美術館や作品の修復工房に勤め、現在は同社で輸送や保存全般に携わる。美術作品において重要なのは、代替不可能な鑑賞体験を、どれだけひらかれた場で行えるか。その一回性と公共性をどう維持できるかだと考え仕事をしてきたという。

 「公共財としての文化財や美術作品を過去から現在、将来に引き継いでいくことは、地球環境 自体への配慮と近しい部分もあると思う」(相澤)。

 話題は、作品輸送へ。輸送箱はその頑丈さ、大きさ、作品の安定性、汎用性、携帯性などの要素がトレードオフになりがちであることを指摘。また作品サイズも様々なため、どうしても使い捨てにならざるをえないという課題があるそうだ。

 それらを解決するためにアーティゾン美術館と同社で、汎用輸送箱を共同開発。これは金属製で、なかのフレームが可動することで様々な作品サイズに対応可能なもの。また国立西洋美術館とは、木製の汎用輸送箱を開発。それぞれ素材のメリット/デメリットがあり、状況に応じて使い分けることができるという。

 いっぽう、ヨーロッパでは、以前から汎用輸送箱が使われてきた。代表的なものがオランダの「TURTLE」。1994年から空輸で使われ、最近のarca社(ドイツ)の汎用輸送箱ではリアルタイムで内部の温度・湿度が計測され参照可能。これは主に桐でできており、制作段階から二酸化炭素排出削減が意識されているそう。

 しかし、汎用輸出箱にも弱点があり、それが繰り返し使えるがゆえの保管場所問題。大きさがあるため空間を占めてしまい、結果として保存や管理のコストがかかる。当然二酸化炭素排出量への影響も。環境負荷を懸念して、今のところスウェーデンやフランスではあまり活用されていないという。

 また輸送手段の面では、小型EVのトラックはすでに市場投入されているものの、大型のものはまだ技術開発段階。経済活動の面と社会的活動の面、そこに環境負荷軽減を加えどう両立させるかというところが肝だと相澤は話す。同社はそのあわいで、取り組みを続けている。

Exhibition Ranking