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「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」(東京都現代美術館)開幕レポート。日本を代表するコレクターの眼

東京都現代美術館で、「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展が開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、中央は鴻池朋子《皮緞帳》(2015-16)

 東京都江東区の東京都現代美術館で、「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」展が始まった。会期は11月10日まで。担当学芸員は藪前知子。

 高橋龍太郎コレクションとは、精神科医・高橋龍太郎(1946〜)が1990年代半ばより本格的に収集を始めた日本の現代美術コレクション。高橋は、草間彌生、合田佐和子を出発点として、とくに90年代以降の重要作家の初期作品・代表作を数多く収集してきた。その総数は現在までに3500点を超え、質・量ともに日本の現代美術においてもっとも重要な個人コレクションのひとつだと言える。

高橋龍太郎と出品作家たち

 本展では、そんなひとりのコレクターの目がとらえた現代日本の姿を、時代に対する批評精神あふれる作家たちの代表作とともにたどるものとなる。会場は「胎内記憶」「戦後の終わりと始まり」「新しい人類たち」「崩壊と再生」「『私』の再定義」「路上に還る」の6章で構成。総勢115組(*)という膨大な近代から90年代生まれの作家の作品が一堂に会し、日本現代美術の系譜をたどることができる

 これまでも美術館で度々展覧会が開かれてきた高橋コレクション。藪前は本展を同コレクションの「入門編であり集大成」と位置付ける。「高橋氏は97年からコレクションを本格的に始めており、95年開館の都現美のコレクションも同時に成長してきた、いわば双子のような存在。当館でこの30年に渡りお見せしてきた美術史とは違う視点を入れられるのではないかと考え、本展のタイトル(日本現代美術私観)をつけた」と語る。

展示風景より

 本展1章「胎内記憶」は、コレクションが始まる90年代半ばまでに制作された草間彌生や合田佐和子らの作品が、いわばコレクションの「胎内記憶」として並ぶ。とくに合田は高橋が最初に購入した記念碑的な作家だ。いっぽうで冒頭には東京都現代美術館が所蔵する久保守、中原實による1947年の絵画も展示。同館が編んできた美術史と高橋の美術史の差異を浮かび上がらせつつ、接続する。

 続く「戦後の終わりと始まり」には、高橋コレクションを代表する戦後の自画像的な作品が並ぶ。小沢剛による「なすび画廊」シリーズ、スーパーフラット以前の村上隆による《ポリリズム》(1991)、会田誠《紐育空爆之図(戦争画RETURNS)》(1996)など、現代美術がグローバルになるなかで、日本という地を起点に現代美術に挑んできたアーティストたちの実践を振り返ることができるだろう。あわせて、90年代前半に行われた伝説的な自主企画展「ザ・ギンブラート」「新宿少年アート」をとらえた八谷和彦による映像記録(都現美蔵)も必見だ。

展示風景より、小沢剛の「なすび画廊」シリーズ
展示風景より
展示風景より、八谷和彦による「ザ・ギンブラート」「新宿少年アート」映像記録(1993-94)

 「新しい人類たち」と題された3章は、高橋コレクションにおいて重要なテーマである人間を描いた作品にフォーカスする。舟越桂や奈良美智、加藤泉、小谷元彦らベテランの作家から、山中雪乃や友沢こたおなど90年代生まれの作家まで、過去30年にわたる様々な作家の多様な人物表現に目を凝らしたい。

展示風景より、手前から舟越桂《言葉を聞く山》(1997)、奈良美智《Untitled》(1999)
展示風景より
展示風景より

 2011年の東日本大地震以降、大きく変化したという高橋コレクション。4章の「崩壊と再生」では、直接的に東日本大地震をモチーフにしたChim↑Pom from Smappa!Groupの《気合い100連発》(2011)や千葉和成《千葉和成「ダンテ「神曲」現代解釈集」地獄篤4-6圏 ─福島第一原子力発電所ジオラマー》(2011)、竹川宣彰《遊牧(子牛)》(2012)などのほか、三瀬夏之介《Exchangeability》(2017)、鴻池朋子《皮緞帳》(2015-16)、小谷元彦《サーフ・エンジェル(仮説のモニュメント2)》(2022)など、震災の空気の中で制作された大作も並ぶ。

展示風景より
展示風景より、千葉和成《千葉和成「ダンテ「神曲」現代解釈集」地獄篤4-6圏 ─福島第一原子力発電所ジオラマー》(2011)
展示風景より
展示風景より、宮永愛子《景色のはじまり》(2011)

 「『私』の再定義」は、作品を制作する主体を外部に委ねたり、複数の視点を統合してひとつの作品をつくりあげる作家が並ぶ。岡﨑乾二郎がエンジニアと共同開発したドローイング作成ロボットで描いた連作を筆頭に、やんツー、村山悟郎、大山エンリコイサム、梅沢和木、ナイル・ケティング、今津景、梅津庸一、坂本夏子、川内理香子、名もなき実昌など、比較的若い世代の作品を概観できるセクションだ。

展示風景より、手前が岡﨑乾二郎の作品群
展示風景より
展示風景より、菅木志雄の作品

 最終章となる「路上に還る」は、いま高橋がもっとも興味を持っているというストリートで活躍するアーティストたちが紹介されている。SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUADやChim↑Pom from Smappa!Group、BIEN、∈Y∋、金氏徹平のみならず、戦後の前衛を代表する作家・篠原有司男が89歳になって制作したボクシングペインティングも力強く存在感を示す。

展示風景より、鈴木ヒラク《道路(網膜)》(2013)と《Constellation》(2020)
展示風景より
展示風景より

 30年に渡り、数多くのアーティストたちに寄り添い、その作品をコレクションし続けてきた高橋。本展はその眼を通して編まれてきたひとつの歴史を概観する絶好の機会だ。

展示風景より、名和晃平《PixCell-Lion》(2015)

*──出展作家は次の通り:里見勝蔵、草間彌生篠原有司男、羽永光利、宇野亞喜良、中村錦平、司修、横尾忠則赤瀬川原平森山大道荒木経惟合田佐和子、立石大河亞、山口はるみ、菅木志雄、空山基、西村陽平東恩納裕一舟越桂森村泰昌大竹伸朗岡﨑乾二郎O JUN小林正人前本彰子、根本敬、奈良美智柳幸典鴻池朋子、太郎千恵藏、村上隆、村瀬恭子、∈Y∋、会田誠大岩オスカール小沢剛ヤノベケンジ、天明屋尚、千葉和成、西尾康之、やなぎみわ、小出ナオキ、加藤泉、川島秀明、Mr.山口晃、岡田裕子、町田久美、石田尚志、小谷元彦、風間サチコ、塩田千春、蜷川実花、池田学、三瀬夏之介、宮永愛子、華雪、加藤美佳、竹村京、束芋、名和晃平、玉本奈々、国松希根太、竹川宣彰、できやよい、今井俊介、金氏徹平、工藤麻紀子、鈴木ヒラク、今津景、小西紀行、小橋陽介、志賀理江子、千葉正也、毛利悠子、青木美歌、桑田卓郎、梅津庸一、大山エンリコイサム、坂本夏子、BABU、村山悟郎、森靖、松井えり菜、松下徹、やんツー、青木豊、梅沢和木、佐藤允、谷保玲奈、DIEGO、弓指寛治、近藤亜樹、庄司朝美、水戸部七絵、ナイル・ケティング、川内理香子、涌井智仁、ob、藤倉麻子、村上早、BIEN、石毛健太、名もなき実昌、土取郁香、山田康平、友沢こたお、山中雪乃、Chim↑Pom from Smappa!Group、SIDE CORE / EVERYDAY HOLIDAY SQUAD、KOMAKUS、中原實*、久保守*、八谷和彦*(*は東京都現代美術館蔵)。

美術手帖プレミアム会員限定で、本展のチケットプレゼントを実施。詳細はこちらから。

編集部

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