日本画とアニメーションを架橋するもの
──四宮さんは東京藝術大学で博士課程まで日本画を学んだのち、2000年代半ばより現在に至るまで多くの展覧会歴を重ねてきた、豊富なキャリアを持つ画家です。日本画でありながら水彩のような透明感のあるテクスチャーが印象的な初期作品や、立方体の木枠が強い存在感を持つ《ファンク》(2011)、普遍的な植物をモチーフとしながらも光源の巧みな表現で独特の存在感を放つ近作など、画家として独自の立ち位置を確立しています。いっぽうで近年は、新海誠監督『君の名は』(2016)の回想シーンの特殊作画や、インドネシアで放映されたポカリスエットのアニメーションCM(2019)など、アニメーションの分野にも活動の範囲を広げてきました。アニメーションに挑戦したきっかけを教えていただけますか。
四宮 もともとアニメは好きでした。ただ、仕事としては個展開催の費用を賄うために始めたものでした。最初はアニメの背景美術を描いていたのですが、やがてCM制作の依頼が来たりと、仕事の幅が広がっていきました。アニメの仕事には、日本画とはまったく異なる鑑賞者からの反響があり、また拡散のスピードにも驚きました。その経験から、もっと能動的にアニメに関わりたいと思うようになり、本格的に取り組む意思を固めていきました。
──日本画の経験は、アニメーションの映像にどのような影響を与えていますか。
作家を長く続けるなかで血肉化した日本画的な感性は映像に投影されていると思います。大学で日本画を学んでいたときから、日本画を映像や立体作品として展開できるのか、という問題はすっと考えてきました。《ファンク》(2011)などはそういった試行錯誤のなかで生まれた作品です。そのときから、日本画を映像化すると、どのようなものになるだろうということは頭の片隅にありました。今回の『花緑青が明ける日に』も、あくまで僕自身の内的なテーマではありますが「日本画をどこまで拡張できるか」という挑戦になっています。

──「墨流し」や「ぼかし」といった技法が代表的ですが、日本画には絵具に対して事後的に変化を与えていく技法があります。これはアニメーションにおいて、絵に様々な効果を追加していく「撮影処理」と類似しているように思いました。
四宮 アニメの撮影処理に使用するAdobe社のソフト「After Effects」の使い方は、卒業後に専門の学校に通ったり、あるいは仲間に教わったりしながら習得しましたので、日本画の技法を直接活かせたわけではないです。ただ、たしかに私の撮影処理の技術に個性があるとしたら、それは一般的なアニメづくりの現場の慣習ではなく、絵を描く感覚で画面に効果を載せているとは言えるかもしれません。
とはいえ集団で制作する場合には、こうした個人の感覚をスタッフで共有することはとても難しいですね。これまでCMやミュージックビデオもつくってきましたが、今回のような映画の尺では、必要なカット数が比べものにならないほど多いので、自身がやりたい表現にどこまでこだわるのか、そのバランス感覚に苦労しました。

──『花緑青が明ける日に』の劇中では一部に実写映像やストップモーション(*1)が使われるなど、様々な技法を組みわせています。こういった技法を巧みに組み合わせる手法も、絵を描いていた経験から生まれたものですか。
日本画の材料で例えると、絵具にする顔料は動物性のものから植物性のもの。それに加え鉱物まで様々なマテリアルがあります。それらバラバラな出自の素材を、ひとつの画面に膠(ニカワ)で定着させていきます。手描きのアニメにストップモーションや実写を組み合わせたりすることは実験的に見えるかもしれませんが、様々なマテリアルをひとつの画面に定着させるという意味では、僕にとって絵を描くことの延長線上にあり、楽しいことでもあります。
──表現のバリエーションが豊富ないっぽうで、画面を構成する線や要素を大胆に省略する映像も目を引きました。
四宮 画面を構成する要素を足し算のように考えていくと、どうしても情報量が増え過ぎ、結果的に他のアニメーション作品と差別化できない、似た印象になってしまうと思いました。むしろ要素を削ぎ取っていったところに何が残っているのかを見せたい。そう考えて画面を設計しました。
絵画の歴史を考えると、東洋も西洋も関係なく、大昔はすべてが平面的に描かれていました。人間は本質的に、光と影の表現ではなく輪郭線と色面によって世界を認知していたと思っていますし、それはアニメーション制作の方法論とも親和性があります。その観点では、これまで私が絵画制作で養ってきた線によって量感や質感を表現する感覚は、アニメーション制作においても強みになっているだろうと思っています。

──また、絵画とアニメのメディアとしての大きな違いに、時間の要素もあります。映像内の時間の一次的な設計図といえるのは「絵コンテ」ですが、このような絵コンテを学ぶ機会はあったのでしょうか。
専門的に習った経験はありませんが、様々な実写作品やアニメーションを見続けるなかで身につけていったのだと思います。映像は絵を使って時間を表現しているので、絵を生業としてきた自分なら、映像における時間も読み解けるだろうという自負はありましたが、いまだに難しいですね。経験がものをいう部分もあると思います。
*1──実写映像を1コマずつ分解し、それをトレースして原画に落とし込み、その原画を連続させることでアニメーション化する技法
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