「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」(SOMPO美術館)の魅力とは。世界最大級のロートレック紙作品のコレクター夫妻の言葉

19世紀末フランスを代表する画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901)の展覧会「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」が東京・新宿のSOMPO美術館で9月23日まで開催中だ。ロートレックの紙作品の個人コレクションとして世界最大級となるフィロス夫妻のコレクションによって構成された本展。このコレクションと展覧会の魅力を夫妻に聞いた。

聞き手・文=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

会場にて、左からポール・フィロス、ベリンダ・フィロス

 19世紀末フランスを代表する画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901)の、おもに紙による作品を集めた展覧会「フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線」が東京・新宿のSOMPO美術館で9月23日まで開催されている。本展はロートレックの紙作品の個人コレクションとして世界最大級となるギリシャ人コレクター、ベリンダとポールのフィロス夫妻によるフィロス・コレクションによって構成。このコレクションがいかに形成されたのか、夫妻に話を聞いた。

一大コレクションが築かれるまで

──本展ではとにかく膨大な数のロートレック作品が並んでおり、コレクションの潤沢さに驚かされます。夫妻が最初に手に入れたロートレックの作品はどういった作品だったのでしょうか。

ベリンダ・フィロス いまとなっては、どれが最初のコレクションだったのかは思い出せません。ただ、憶えているのはそれがポスターだったということ、そしてそれを買うために努力しなければいけなかったということです。当時を思い出すと、そのときの感情が様々に蘇ってきます。当時はまだ若く、そしてお金もありませんでした。ですから、何を買おうか、たくさんの思いを巡らせ、最初のコレクションを買ったはずです。

展示風景より

──そのような小さな一歩が、やがて今回の展覧会で見られるようなロートレックの人生を振り返ることができる膨大なコレクションとなっていったわけですね。回顧展ができるように体系的にコレクションするという方針はどのように決めていったのですか。

ポール・フィロス コレクターはふたつのタイプに分かれると思っています。アートのコレクションというのは、数の問題ではないですよね。例えば2作品を持っているだけでも、それはコレクションと呼べます。多くのコレクターがこのタイプだと思います。

 私たちはそうではないコレクターでしょう。作品数が増えてくると、網羅的に持っているということが重要だと思うようになりました。ただバラバラに好みに応じて収集するのではなく、作品一つひとつがつながりを持つようにコレクションをしなければいけません。それを目指してコレクションを構築していくわけですが、 しかし集めていく過程である作品と作品のあいだに空白があることに気づいてしまったりします。その空白を埋めるために、また作品を買わなければならない。

 この作業を続けた結果、300点を超えるまでに作品数が増えたわけです。 しかし、それでもまだ空白は発生し続けます。そのギャップを埋めるための作業がこれからも必要になっていきます。

展示風景より

──完成品からポスターや油彩画の習作、簡易的なスケッチまでをまとめて紹介する本展ですが、今回の展覧会で美術館に貸し出す作品はどのように決まったのでしょうか。

ポール 私たちのロートレックのコレクションというのは、通常9つのクレートのなかに入って保管されています。各クレートは、ロートレックの人生を網羅的に伝えるための絵画が入っているので、そのなかの1作品を別のクレートに移すということはできません。だから、コレクションを貸し出すときに私たちが行う作業というのは、この9つのクレートのなかから1つを選ぶということです。そのうえで、美術館側がどのように展示するのかを考えるという手順を踏んでいます。

展示風景より

ロートレックの魅力をすべての人に

──5章構成でロートレックの生きた時代そのものをいまに伝えるような本展ですが、実際にコレクションが展示されている様子を見て、どのような感想をお持ちになりましたか。

ベリンダ 前回、私たちが自分のコレクションを見たのはイタリアでの展覧会でしたが、すでにそれは7年前のことです。私たちのコレクションは多くの方の人気を集めていますので、色々な美術館から引き合いがあり、世界中を巡回していたので、なかなか家に帰って来ることができないんです(笑)。

 さらに、すべての美術展に私たちが足を運べるとは限りません。つまり、今回の展覧会は私たちにとって7年ぶりにコレクションに再会できた展覧会でもあったのです。寂しいと思っていたので、改めてこのコレクションの魅力にふれることができる素晴らしい機会となりました。

展示風景より

──今回の展覧会は、とくにドローイングの点数の豊富さが魅力的で、ロートレックの躍動感ある線を感じることができました。おふたりにとってのロートレックの魅力とはどのようなものなのでしょうか。

ポール ロートレックのドローイングで顕著なのは、あまり多くの線を必要としないというところでしょう。少ない線で人物や動物の動き、そして感情を表現することができています。それこそが、私がロートレックのドローイングに惹かれる点です。

ベリンダ そしてドローイングは即時的な表現です。まさにアーティストが何かを描くとき、その頭のなかにあったものの表出といえるでしょう。それもまた魅力です。

展示風景より

──ほかに、おふたりが考える本展の魅力があれば教えてください。

ポール 本展については、会場での解説文にも多くの努力を注ぎました。解説文を来場者の方に読んでいただくことで、作品に関するより多くの情報を知ることができるはずです。本展をより深く楽しんでいただくためにも、来場者のみなさんにはぜひキャプションをじっくり読んでいただきたいと思っています。

ベリンダ 私たち夫婦の来歴そのものとでも言うべきコレクションが、来日しています。ぜひこの機会に多くの方に会場に足を運んでいただき、ロートレックの魅力に触れ、そして彼の人生について学んでほしいです。

編集部

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