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川口市立美術館が開館。蜷川実花の「はじまり」をたどる特別展で幕開け【7/8ページ】

10年間手をつけられなかった父の書斎を再構築

 そして本展でもっとも異質な存在感を放つのが、第2章「ROOM KEY」だ。ここでは、蜷川幸雄の死後も約10年間そのまま残されていた書斎を起点に、大規模なインスタレーションが展開されている。

「ROOM KEY」の展示風景 撮影:編集部

 蜷川実花にとって、その書斎は子供の頃の遊び場であると同時に、創作の原点のひとつでもあった。しかし、父の死後は「どうしたものか」と考えながらも、片付けることができなかったという。今回の展覧会を機に、蜷川は初めてその部屋と本格的に向き合い、物を運び出し、展覧会場で再構築した。

 空間の中心には蜷川幸雄が愛用した机。その周囲には、合田佐和子の絵画や四谷シモンの人形、西洋絵画の複製、演劇や映画のポスター、台本、舞台にまつわる品々などが密集する。父の部屋にあったテレビやDVDプレーヤーもそのまま持ち込まれ、舞台で使用された音や映像も空間に入り込む。

「ROOM KEY」の展示風景 撮影:編集部
「ROOM KEY」の展示風景より 撮影:編集部

 それはただの「書斎の再現」ではない。蜷川が意図したのは、「創作の場」と、そこで生まれたものが外の世界へと広がっていく場所との境界を曖昧にすること。父の私的な書斎を起点としながら、現実と虚構が浸食し合う空間へと変換している。

 その周囲を取り囲むのが、母・蜷川宏子が長年制作してきた巨大なキルト作品だ。さらに「First Light」を発展させた作品も加わり、父、母、娘、それぞれの時間がひとつの空間のなかで重なり合う。

「ROOM KEY」の展示風景より、蜷川宏子のキルト作品 撮影:編集部

 じつは蜷川は、これまで家族をテーマに作品をつくることを意識的に避けてきたという。若い頃、作品そのものではなく両親との関係ばかりを問われることに強い抵抗があり、それゆえ「あえてそこに触れて何かをつくることをしないできた」と話す。

 しかし父の死から時間が経ち、自身も長いキャリアを重ねた。そして何より、川口という場所で展覧会を行う機会が訪れたことで、初めて家族と自然に向き合うことができたという。

編集部