いままでにない「アーティストブック」をつくる
下北沢駅前の賑わいから少々離れた場所に、ひっそり佇む古民家がある。そこは現在、ギャラリースペース「DDDART」として運営されている。この静かな日本家屋の内部では、いま華やかで濃密な異世界が広がっている。蜷川実花の個展「mirror, mirror, mirror mika ninagawa」展が開かれているのだ。
今春に北野天満宮境内で大々的に展開したインスタレーションをはじめ、京都市京セラ美術館、TOKYO NODEでの個展など、近年の蜷川実花の活動には大規模なプロジェクトが続いている。しかし、今回は趣を異にしている。こぢんまりとした親密な空間のなか、畳の部屋ではペンキをぶちまけるなど、作家がその衝動の赴くまま展示をつくり上げた感覚がひと目で伝わってくる。
本展の意図を、作家本人はこう語る。「どんな仕事も創作も熱を入れて挑戦を重ねています。でも、私にとってはやはり写真がすべての原点であり、帰る場所です。どんなときも写真だけは呼吸をするように撮り続けてきましたし、大きなプロジェクトをやればやるほど、カメラで世界を切り取るシンプルな行為が輝いて見えてくる。そう感じているときに、今回のアーティストブックをつくろうという話が舞い込んできました。これまで出してきた100冊以上の写真集のどれとも異なる、私の『撮らずにはいられない』原始的な衝動を詰め込んだ本にしたいと、制作に取り組みました。本のかたちが見えてきた頃、自然と同じ熱量で展示もやろうという話になっていきました」。
今回の展示は、アーティストブックの刊行を機に、その世界観を空間に展開しようと企画されたものだ。では、アーティストブック制作の経緯はどのようなものであったのか。
「30数年のキャリアを通して、途切れず写真集をつくってきました。写真家にとって本は大事な表現手段です。とはいえ昨今は出版業が厳しい状況ですし、どんな画像もスマホで見られるようになっていて、写真集を持つ意味や買ってくださる層が大きく変わってきています。『この時代に本だからこそできる表現はなんだろう?』とはいつも考えていることです。たんに写真がきれいに見えるだけではなく、モノとして触れるのだけで楽しくて、ページをめくることで体験が立ち上がってくるようなものをつくりたいと思い立ち、手に取った人が一生大事にしてくれるような一冊を目指しました」。

そうした方針が定まれば、収載する写真もおのずと決まってくる。「撮影時期やテーマ、被写体の種類で写真を絞ってはいません。それよりも、自分のなかから湧き上がってくる何かをかたちにしたかった。セレクトの基準は言葉にしづらいのですが、『なぜ自分は日々写真を撮りたくなるのか』『なぜこんなに生き急いでいるのか』『すぐに新しい挑戦をしたくなる気持ちはどこからくるのか』といった問いが、いつも私のなかでは渦巻いているので、その答えを探るように写真を選んでいきました」。

アーティストブックの「造り」は、凝りに凝ったものとなった。大きく3つのセクションに分かれた写真群は7冊の本に収められ、それらが一本のリボンで結ばれている。ところどころに蛇腹式のページやステッカーが挟み込まれているため、観る側はあちこちに目と手を奪われ、単調にページをめくるのではない読書体験が生まれている。
イレギュラーな形態ゆえ、製本工程の多くは手作業となった。最後は、編集者をはじめスタッフが一冊ずつリボンを結んで仕上げていったという。蜷川実花が美大予備校に通っていた時代に描いた絵も、ポストカード状になって封入されている。「初めて公に出しました。金魚や花、蝶といったモチーフも、色の感覚も、『いま(の作風)とまったく変わってないじゃん』と周りからは言われています(笑)」。





























