坂本龍一が追求した「設置音楽」
坂本と高谷の協働は《async - immersion》だけにとどまらない。高谷は『async』のアートワークの制作をきっかけに坂本のニューヨークのスタジオを撮影し、5.1chサラウンド版『async - surround』の映像を制作。2017年にワタリウム美術館で開催された「坂本龍一|設置音楽展」では《async - drowning》を発表した。その後も、ニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで行われた『async』のコンサートや、シアターピース『TIME』など、ふたりは音と映像、身体、空間をめぐる協働を重ねてきた。《async - immersion》は、そうした長年の試みの延長線上に位置している。
坂本が亡くなった2023年に京都で初めて公開された同作が、3年を経て東京に現れる。そこで体験されるのは、坂本の音楽を振り返るための回顧的な空間だけではない。むしろここでは、坂本が晩年まで問い続けていた「音楽はどのように空間に存在できるのか」という問題そのものが、現在形で提示されている。
イヤホンや小さなスピーカーを通じて、音楽をきわめて個人的に聴くことが当たり前になった現在。《async - immersion》が提示するのは、その対極にあるような音楽体験だ。音を空間に放ち、映像や建築、鑑賞者の身体までを作品の構成要素にしてしまう。完全には同期しない音と映像が、その瞬間にだけ偶然出会う。そして、そのあいだに鑑賞者自身が立つ。坂本龍一が「設置音楽」という言葉で追求したものを、《async - immersion》は耳だけではなく、全身を使って考えるための空間として提示している。



















