抗議と連帯が覆った「In Minor Keys」。第61回ヴェネチア・ビエンナーレ現地レポート

5月9日に開幕した第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」は、開幕前から異例の緊張感に包まれていた。総合キュレーター、コヨ・クオの急逝、国際審査員団の辞任、そして会期中に広がったストライキ。本稿では、現地で起きた出来事と展覧会内容の両面から、今年のビエンナーレが映し出した現在をレポートする。

文=王崇橋(編集部)

プレビューとなる5月6日、Pussy RiotとFEMENがロシア館前で実施した大規模な抗議行動の様子 撮影=筆者

開幕前から揺れるビエンナーレ

 5月9日に開幕した第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」は、開幕前から異例の緊張感に包まれていた。

 その発端となったのは、昨年5月に総合キュレーターのコヨ・クオが急逝したことだ。また開幕直前には、「金獅子賞」などを選出する国際審査員団5名が一斉に辞任するという異例の事態が起きた。審査員団は声明のなかで、「国際刑事裁判所によって人道に対する罪で訴追されている国家の代表は審査対象としない」と表明。名指しこそ避けたものの、ロシアおよびイスラエルを念頭に置いたものと広く受け止められた。

 これを受け、ビエンナーレ側は授賞式を11月へ延期し、代替措置として来場者投票による「ビジターズ・ライオン賞」の新設(ロシア、イスラエルも対象とする)を発表した。しかし、この決定に対しても、参加アーティストのあいだでは反発が広がっている。

 国際美術展の参加作家のひとりである嶋田美子は、「私たちは人気投票のためにアートをつくっているわけではない」と語り、「これは結局、運営側の責任逃れのように感じる。ポピュリズムの非常に悪い使い方だと思う」と批判した。現在、国際展の参加作家のあいだでは、審査対象からの辞退を検討する動きも進んでいるという。

5月8日に嶋田美子がアメリカ館前で行った抗議パフォーマンスの様子 撮影=筆者

 嶋田と同じく参加作家のブブ・ド・ラ・マドレーヌは、プレビューである5月6日にドラァグ・パフォーマーやミュージシャンたちとともにアルセナーレ周辺でパフォーマンスを実施。嶋田は取材に対し、「これまで日本では、LGBTQやエイズ、女性運動、反戦運動など、多くの社会運動が歴史のなかで不可視化されてきた」と語る。「私は、そうした不可視化されてきたものを可視化したい。そして、社会を変えようとして亡くなった人たちを追悼すると同時に、彼らが確かに生きていたことを改めて共有したい」と述べた。