「水」と身体が支配する展示空間
こうした政治的緊張のなかで開幕した「In Minor Keys」だが、展覧会そのものもまた、現在の世界が抱える不安定さや矛盾を強く反映した内容となっていた。コヨ・クオが構想した本展には、110組のアーティストやコレクティブが参加し、展示は「セクション」ではなく、「Shrines」「Procession」「Schools」「Rest」といった複数のモチーフによってゆるやかに構成されている。
国別パビリオンを含む会場全体を通して、とりわけ印象的だったテーマのひとつが「水」だ。海面上昇、環境破壊、植民地主義、身体と自然の循環──そうした問題系が、多くの作品において水や海、湿地、洪水といったイメージを通じて繰り返し提示されていた。
なかでも大きな注目を集めていた国別パビリオンのひとつが、パフォーマンスアーティストのフロレンティーナ・ホルツィンガーによるオーストリア館「SEAWORLD VENICE」だった。内覧会初日から長蛇の列ができ、時間帯によっては1〜2時間以上待つ来場者も見られた。

ホルツィンガーは、オーストリア館を「聖堂」「海底テーマパーク」「下水処理施設」が混在する空間として再構築。会場内では、観客の身体から排出される尿が循環システムに組み込まれ、その液体によってパフォーマーが生活する水槽空間が維持されるという、極めて挑発的なインスタレーションが展開された。
浸水した館内にはジェットスキーが浮かび、ロボット犬が水中を徘徊する。さらに中庭では、パフォーマーが観客の尿によって維持される水槽のなかで生活を続ける。作品は、マスツーリズムと環境危機が衝突するヴェネチアそのものを縮図化しながら、身体、テクノロジー、管理、そして廃棄物の問題を、強烈な身体性を通じて可視化していた。


ホルツィンガーは声明のなかで、「水と深い関係を持つヴェネチアという都市で、身体を通じて自然とテクノロジーの相互依存を探求したかった」と述べている。また、キュレーターのノラ=スヴァンティエ・アルメスは、本作について「人類が崩壊するシステムに加担していることを描きながら、“秩序”そのものが不安定であることを露呈している」と説明した。



















