「刀剣乱舞ONLINE」から文化財レスキューへ。12万人の支援が動かす、文化財防災の新たなかたち【4/6ページ】

「手持ちのものがないと動けない」。1000万円が変える初動

──もうひとつ今回の大きな取り組みが、文化財防災救援基金への寄付です。もともと刀研機構では、2026年10月以降、毎年500万円を積み立てる計画だったそうですね。

橋本 頻発する様々な災害のすべてに対して、その都度「この災害には出す、この災害には出さない」と判断するのは難しい。また被災現場で、刀剣だけを選んでレスキューしてくれ、というのも現実的ではありません。であれば、災害が発生した時、躊躇することなく現場に駆けつけられる資金を担保することで、結果的に刀剣が確実にレスキューされる状況をつくることが合理的だろうと考えました。毎年一定額を基金に積み立て、文化財防災センターが必要だと判断したとき、もっとも使いやすいかたちで使っていただく、というものです。その事業を始めようとしていたところに令和8年熊本地震が起きました。熊本は刀研機構の母体であるニトロプラスや「刀剣乱舞ONLINE」とも縁の深い地域ですし、資金的な余裕もあったので、まず1000万円を寄付するところから始めました。

──文化財レスキューにおいて、発災直後に使える資金があることは、どれほど重要なのでしょうか。

高妻 文化財防災センターができてから初めて経験した大規模災害が、令和6年能登半島地震でした。

 1月1日の発災で年度末に近かったこともあり、文化庁としてもすぐに大きなお金を出せる状況ではありませんでした。被害の全容を把握し、どれくらいの事業費が必要なのか積算しないと、公的なお金は動かせません。これは制度上、仕方のないことです。

 でも、文化財レスキューはその間も待っているわけにはいきません。能登のとき、私たちが現地に入ったのは2月半ばで、現地でレスキューの体制を立ち上げたのは3月11日でした。

 そこで痛感したのが初動の重要性です。言い方は少し変ですが、「手持ちのものがないと動けない」んです。

能登半島地震の被災地 撮影:高妻洋成

──今回の熊本では、そこが変わったのでしょうか。

高妻 今回は刀研機構からいただいた1000万円を含め、クラウドファンディングなどによる資金もある状態でした。

 7月28日に地震が発生し、文化庁や熊本県と協議したうえで、8月4日には現地へ入り、翌5日には現場を見ることができました。非常に早く動き始めることができたのです。

 もちろん、公的な予算が出るまでには被害状況を調べ、必要額を積算する時間が必要です。そのあいだを支える「つなぎ」のお金があることが、とても大きいのです。

 経験上、1000万円あれば、規模にもよりますが短ければ2週間、長ければ1ヶ月程度、初動の活動を支えられるという感覚があります。

熊本地震で被災した砥川神社で絵馬を取り外してレスキューする様子 提供:熊本県文化課

──つまり、災害が発生してから資金を集めるのではなく、平時から基金が存在していること自体が重要なのですね。

高妻 そうです。例えば手元に500万円しかなかったときに、「500万円を全部出します」と言ってしまうと、「では次に何か起きたらどうするのか」と考えざるをえません。

 ある程度の金額がプールされているからこそ、「今回は1000万円を出して動こう」という判断ができる。初動を支える資金が常に確保されていることには大きな意味があります。

編集部

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