「刀剣乱舞ONLINE」から文化財レスキューへ。12万人の支援が動かす、文化財防災の新たなかたち【3/6ページ】

なぜ「刀剣」には専用マニュアルが必要なのか

──そうしたネットワークづくりの一環とも言えるのが、刀研機構と文化財防災センターで制作を進めている「日本刀の発見・登録や災害時レスキューに関するマニュアル整備事業」です。なぜ刀剣に特化したマニュアルが必要なのでしょうか。

高妻 災害が起きると、所有者の方自身も存在を知らなかったものが出てくることがあります。例えば屋根裏にずっと置かれていて、おじいさんの代までは知っていたけれど、孫の代になったら誰も知らない。そうしたもののなかで特徴的なのが刀剣なのです。

 災害が起きると、刀剣の届け出件数が非常に増える。10年前の熊本地震でも、教育委員会の方から刀剣の取り扱い案件が多かったと聞きました。そして刀剣は、銃刀法のもとで厳密に取り扱わなければいけません。レスキューに入る人が専門家とは限らないので、見つかった刀をどうすればいいのかわからないということが起きます。

 行政職員も数年で異動しますから、過去に対応した人の知識がそのまま引き継がれるとは限らない。だから、誰でも正しい対応にたどり着けるものが必要なのです。

──刀剣は、ほかの美術品や文化財と比べても取り扱いが難しいのでしょうか。

橋本麻里(以下、橋本) 現場で登録証のない刀が発見されるケースもあります。そうなると、単純に「見つかったから持っていく」ということはできません。警察、教育委員会、所有者、地域の(埋蔵)文化財担当者、博物館・美術館の学芸員など、それぞれがどの段階で何をするのかを整理する必要があります。

 加えて、刀剣の保存は刀身だけを考えていればいいわけでもありません。鞘や鍔といった刀装具には、漆、金属、染織品、革など様々な素材が組み合わされています。例えば水害に遭った場合、素材ごとに対応が異なってくる。法制度と保存科学の両面から見ても、非常に複雑な存在と言えるでしょう。

高妻 レスキューに入る人が、刀剣をどう扱ったらいいのかという知識を持っていればいいのですが、現場には様々な立場の人が入ります。そういうときに「次に何をすればいいのか」がわかるマニュアルが必要になります。

能登半島地震(2024)での土蔵における文化財レスキュー活動 写真提供:文化財防災センター

──今回のマニュアルは、災害時の対応だけを扱うものではないのですね。

高妻 そうです。災害現場に持っていけるような小さな冊子で、防水のものがつくれればいいねという話もしています。刀が見つかったときにポケットから出して、まず何をしなければいけないのか確認できます。

 でも、それだけではありません。一般の方にも手に取ってもらい、刀剣をどう扱うべきなのか、なぜそうした制度があるのかまで理解してもらえるものにしたい。災害時だけではなく、刀剣について正しく知るためのマニュアルになればと思っています。

──具体的には、どのような内容を盛り込む予定でしょうか。

橋本 平時の発見や登録、相続、譲渡、修理といったところから、災害時の対応や応急処置までを扱う予定です。

 たんに「この場合はこうしてください」と手順だけを書くのではなく、文化財レスキューにはどういう意味があるのか、銃刀法のもとでなぜその対応が必要なのかといった背景まで理解できるものにしたいと思っています。

 なぜなら、理由を理解したうえで対応するのと、「そう書いてあるからやる」のとでは、現場での判断も変わってくるはずだから。全体像を俯瞰したうえで、「この場合はどうするのが適切なのか」を判断するための根拠になるものを目指しています。

──文化庁や警察庁など、行政機関との連携も必要になりますね。

橋本 文化庁にはワーキンググループの段階からオブザーバーとして関わっていただいています。他にも関係する機関は複数あるので、それぞれが管轄する範囲について確認や助言をいただけるよう、進めていく予定です。

──実際にワーキンググループで議論するなかで、難しさを感じた点はありますか。

高妻 取り扱いがひとつの流れだけで済めば整理しやすいのですが、専門家に聞くと「その場合はこちら」「この条件なら違う」と、どんどん枝分かれしていくんです。それを一般の方にもわかりやすく、どう整理して伝えるのか。そこは非常に難しいところです。

橋本 ですから、フローチャートが必要だという話をしています。誰が見ても、自分がいま置かれている状況から必要な対応にたどり着けるものにしたいですね。

編集部

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