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オランダ彫刻家が取り組む「仁王門プロジェクト」から考える、文化財保護の課題と可能性

オランダの彫刻家イッケ・ファン・ローンがアムステルダム国立美術館で仁王像(14世紀・作者不明)と出会ったことから始まった仁王像・仁王門にまつわる一連のプロジェクト。現在も続くこのプロジェクトが投げかける、文化財保護の課題と可能性を考える。

文=貝谷若菜

アムステルダム国立美術館で展示された仁王像

 2013年、オランダの彫刻家イッケ・ファン・ローン(Jikke van Loon)は、アムステルダム国立美術館で、仁王像(14世紀・作者不明)と出会った。美術館の壁に背を向けて展示されている仁王像を見て、彼女は「門番としての本来の役割を果たせていないのではないか」と感じた。その思いから、彼女は島根県奥出雲町横田の岩屋寺(いわやじ)の仁王門を訪ね、仁王像がいなくなったことで失われた繋がりや歴史を取り戻すべく、2018年に「Issho-ni/Tomo-ni」ブルーNio制作プロジェクト、そして2021年に「仁王門プロジェクト」を開始した。この個人的な探求と使命感から始まった仁王門プロジェクトは、紆余曲折を経て、日本の次世代に向けた地域の歴史、コミュニティー、そして文化財の持続的な保護に関して大きな問いを投げかけている。

イッケ・ファン・ローンと仁王像の図面
Photo by Erik Smits

彫刻家イッケ・ファン・ローンとは

 ファン・ローンは、幼少期から自分とともに空間に存在するものに興味を抱いていた。彼女は1970年代にオランダでインテリア設計士の母のもとに生まれ育ち、家には畳が敷かれ、母の趣味は生け花だったという。幼い頃から、日本の文化様式や東洋哲学に無意識に触れていた彼女は、禅の輪に興味をもちながらも、西洋的な美の基準とは異なるそれが、なぜ美しいとされているのか理解できなかった。

 このような日常的な好奇心から、彼女は、ある文化では美しいとされるものが、別の国では異なるものが美しいとされることに強く惹かれるようになり、「美」という概念に深い興味を持った。その後、インド哲学を中心に東洋哲学への学びを深め、西洋と東洋が空間や物体、実体を通じて現実をどうとらえるかの違いを探求した。

 そんな彼女は、木炭や粘土などの自然素材を用いた彫刻が空間に与える圧倒的な存在感に魅了され、具象的な彫刻家としての制作活動を行ってきた。現在は、人間ではないモノや実態の寿命をコンセプトにした’Singing songs to stone’や暗闇という空間の存在をテーマに’Black’というパフォーマンス・シリーズにも取り組んでいる。彼女の代表作のひとつである《アントン・デ・コム》(2005)は、アムステルダム国立美術館のコレクションの一部である。

アムステルダム国立美術館で展示されたイッケ・ファン・ローン《アントン・デ・コム》(2005)
Erik Smits / Rijksmuseum

アムステルダムの仁王像・出雲町横田の仁王門との出会い

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