「文化財」は国宝や重要文化財だけではない
──まず、「文化財」の定義から教えていただけますでしょうか。
高妻洋成(以下、高妻) 文化財というと、国宝や重要文化財、美術館に展示される美術品のようないわゆる「お宝」をイメージする方が多いと思います。でも、私たちはそれだけを文化財だとは考えていません。
自分たちの生活のなかにあって、ずっと大事にしてきたもの。家に代々伝わるものや、その土地のお祭りで使われる道具、地域の歴史が書かれた文書なども、その家や地域の暮らしを表す重要な存在です。
普段はその重要性を意識していなくても、災害によってお寺が壊れたり、神社が流されたり、御神輿が失われたりしたときに、初めて「あれは自分たちにとって大切なものだった」と気づくことがあるんです。
文化が失われた地域には、人が帰りにくくなる。逆に、傷ついた文化財を救い、地域の文化を取り戻していくことは、そこへ人が戻り、暮らしを再建していく力にもなります。
──「文化財レスキュー」とは、具体的にはどのような活動なのか教えてください。
高妻 例えば被災したお寺や神社、民家などから、そこで大切にされてきたものを一時的にお預かりします。必要であれば応急処置を行い、所有者の生活が再び軌道に乗ったときに返せる状態にしておく。それが文化財レスキューです。
能登半島地震の被災地にもずっと通っていますが、復興に前向きに取り組んでいる集落を見ていると、人と人との結びつきが非常に強いんです。文化というものの根底には、そうした人々のつながりがあるのだと実感しています。
文化の復興と生活や経済の復興は、別々にあるのではなく、両輪として考えなければならないと思います。

──地震や豪雨など自然災害が頻発するなかで、文化財レスキューの必要性も高まっているのではないでしょうか。
高妻 おっしゃる通りです。能登では地震のあとに豪雨がありましたし、それ以外にも全国各地で毎年のように大雨や地震による被害が起きています。
文化財防災センターも発足当初は研究員10人ほどでしたが、いまは定員を5人増やして15人にするなど、体制強化を進めています。
ただ、人数を増やしたからといってすぐに何かが解決するわけではありません。私たちは「消防隊」ではありません。全国47都道府県で何かが起きるたびに、文化財防災センターの職員が駆けつけてすべてを救出するという体制はつくれないのです。
──では、文化財防災センターはどのような体制を目指しているのでしょうか。
高妻 重要なのがネットワーク構築です。全国の専門家や関係機関をつなぐネットワーク、各都道府県内で文化財を守るネットワーク、さらに大きな災害が起きたときに都道府県同士が助け合える広域的なネットワークをつくる。文化財防災センターは、そのハブとして情報を集め、共有し、必要な専門家や技術をつなぐ役割を担おうとしています。



















