世界の美術館におけるアール・ブリュットのコレクション
ところが、である。ここ数年、アール・ブリュットと美術館の関係は大きく変化している。少なくない総合系の美術館がアール・ブリュットの「コレクション」を有するようになったのだ。
例えば、フランス・リールにある美術館「LaM(ラム)」。正式名称はLille Métropole Musée d'art moderne, d'art contemporain et d'art brut、あえて日本語に訳すのであればリール・メトロポール・近現代美術とアール・ブリュットの美術館と極めて長く複雑になる。もともとヴィルヌーヴ=ダスク近代美術館(Musée d’art moderne de Villeneuve d’Ascq)として誕生した同館が、アール・ブリュットにおいて主要なコレクションのひとつ、「アラシン・コレクション(Aracine Collection)」を受贈することを決めたのは1999年のことだった。すでにフランス国内外でも知られていた同コレクションの寄贈に際しては、アール・ブリュットを常設展示するためのスペースを用意することが条件となっていた。2010年9月にリニューアルオープンしたLaMの総展示面積はおよそ4000平米。そのうち近代美術に950平米、現代美術に600平米、企画展示に1000平米、休憩スペースとマルチメディアスペース通路に350平米、そしてアール・ブリュットには1100平米もの面積が割かれている。
リール以外でも、アメリカ合衆国のフィラデルフィア美術館には、ボノヴィッツ・コレクションが将来の寄贈を前提に寄託されている。同国のミルウォーキー美術館にはアンソニー・ペトゥッロ・アート・コレクション(The Anthony Petullo Art Collection)があり、英国マンチェスター大学のウィットワース・アート・ギャラリーにはマスグレイブ・キンレイ・アウトサイダー・アート・コレクション(The Musgrave Kinley Outsider Art Collection)がある。
いずれも、美術館という組織が主体的にゼロからコレクションを形成したのではなくて、個人の長年の収集活動の成果を引き受けたというかたちをとっている。それは、アール・ブリュットの作品群であると同時に、(美術史による)評価の定まっていなかった作品を、個人が、己の感覚と財力とネットワークによって作品群にまでつくりあげた成果でもある。


この構図は、2022年6月にポンピドゥー・センターが受贈を発表したabcdコレクション(ART BRUT / collection abcd)においても繰り返されている。映画製作者のブルーノ・ドゥシャルムが1970年代半ばから収集を始め、4000点を超える規模となっていたコレクションのうち、242作家、921点が寄贈された。ドゥシャルムはabcd(art brut connaissance et diffusion)協会の創設者であり、アール・ブリュットに関する展覧会やモノグラフ、研究プロジェクトの発展を支援してきた人物だ。ポンピドゥーへの寄贈にあたっては、アール・ブリュットを常設することも条件に入っていたようで、実際に22年10月より、小さな規模ではあるものの、常設展示室の一角で紹介されるようになった。ちなみに、私が23年10月に確認した際には、澤田真一、舛次崇2人の日本人の作品が展示されていた。ほかにも、河合由美子、齋藤裕一、坂上チユキ、坂元郁代、瀬古美鈴、田中乃理子、寺尾勝広、西岡弘治、戸次公明、松本国三、宮川祐樹、森川里緒奈、吉川秀昭、与那覇俊といった日本人の作品がabcdコレクションとして収蔵されている。





















