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「宮坂了作 ART 75歳」(越後妻有里山現代美術館 MonET)会場レポート。「農業」が美術の前衛性を加速させる【3/3ページ】

越後妻有で合流する宮坂の静と動

 宮坂の作歴を振り返ると、カプローの影響により養われた「ハプニング」の要素をもつ動的かつパフォーマティブな作品と、松澤の「オブジェの消滅」の逆をいく物質性と平面性にこだわった地図モチーフの作品という大きな二軸が存在することがわかる。この二軸を、自らのアーティストとしてのアイデンティティを確かめるように合流させた作品が、本展のために制作された大型作品《ART》(2026)といえる。

宮坂了作《標高の色のART》(2025)。高さ約2.5メートルの紙を体育館の床に置きながら制作された

 本作は宮坂がかつてカリフォルニアで試みた「A」に、「R」「T」を加えた3つの巨大なアルファベットで構成され、「ART」を成す。アルファベットはホームセンターで購入したという市販の竹箒で描かれており、それぞれ緑、茶、青という、宮坂の「地図」シリーズで使用される色が用いられる。アルファベットの横に配された色別のスケールも、地図作品との関連を伺わせる要素となっている。

 宮坂は本作を秋から春にかけて、農業従事者にとって生活の基準となる季節の変化を感じながら、半年以上の時間をかけて描いた。約60年前に宮坂がカプローの「What is your starting point?」という言葉から続く、「農業」という作家の一貫したアイデンティティも、本作では体現されている。

宮坂の祖父である宮坂武治が農業の発展に貢献したことを顕彰した表彰状

 キュレーションを手がけた椹木は、本展について次のように語った。「展示室には、宮坂さんの祖父である宮坂武治氏の農業への貢献を表彰した表彰状も6点展示した。宮坂さんはこれを展示することに少し困惑していたが、宮坂家が諏訪で連綿と農業に従事してきた確かな証であり、それこそが宮坂さんの作品の強度を支えるものと言える。こうした作家のアイデンティティも意識しながら作品を見てもらいたい」。

 70年代当時、最先端だったアメリカの現代美術の現場で高く評価され、その精神をそのまま持ち帰りながら、日々の生活のなかで作品をつくり続ける宮坂。本展に並ぶ作品は、美術における前衛性は各時代の潮流として評価されるだけではなく、生活のなかの局所的な営みに持ち込まれることで変容し、時代を超えた強度を持ち得るということを教えてくれる。ひとりの芸術家の回顧展でありながら、同時に現代美術の根底にある可能性を再度考えさせてもらえる展覧会となっている。

編集部