「高木由利子 写真展 Threads of Beauty 1995-2025 ― 時をまとい、風をまとう。」(Bunkamuraザ・ミュージアム)開幕レポート。写真と衣服、「かっこいい」を生み出す質感【3/3ページ】

巧みな会場設計とそこに込められたメッセージ

 「Threads of Beauty」の作品はすべてモノクロームでプリントされており、色彩の情報を除いたことで洋服のディテールや質感、人々の表情をつくり出す筋肉の動きなどがありありと伝わってくる。作品は手でちぎった竹和紙にインクジェットで印刷されており、そのほとんどが小松マテーレの開発したナイロン生地「KONBU®」にミシン縫いによって取りつけられた。この「KONBU®」は特色で染められ独特の風合いを醸し出している。竹和紙に印刷された写真の上にはニスが塗られ、近づけばハケの跡を見つけることもできる。このように、写真の物質感を強く感じられるのも、本展の大きな特徴だ。

中央は《Iran, 2006》。ニスを塗ることで作品の表面に光沢が生まれ、黒の深みも増している

 会場に敷かれた赤茶色の絨毯は、同じく渋谷のヒカリエホールの展覧会で使用されていた、廃棄予定のものを敷き詰めたもので、高木が踏みしめてきた土の質感を連想させる。会場奥にある高木のオリジナルプリントや世界各地で集めてきた私物を展示するスペースのアクリルのボックスも、本館で過去に使用してきた什器を活用している。布に縫い付けられた写真もすべて丸めて持ち運ぶことができるようになっており、こうした工夫は高木が本展で目指した「ノマディック(遊牧の/漂流の)」というコンセプトを体現するとともに、展覧会による廃棄物を最小限にすることにも寄与しているという。

会場内には「広場」と呼ばれる空間があり、開幕前のオープニングでは、ドラムを打ち鳴らすパフォーマンスが展開された
オリジナルプリントや高木の収集した私物は、アクリルケースを利用した立体的な展示が試みられている

 本展唯一の映像作品《同時多発的装飾》(2026)は、現代の東京を生きる来場者と、高木が撮影した世界各地の人々とを結びつける役割を果たす。本作は高木が2000年代始め頃に撮影した渋谷のスクランブル交差点の映像と、「Threads of Beauty」シリーズの写真を同時に映し出している。高木はここで「現代の都市を生きる我々も、『Threads of Beauty』で捉えた人々と同じ地平にあることを感じてもらいたい」と語る。

 本展は渋谷ファッションウィークとの共催であり、国内のブランドが渋谷で様々な発表をするなかで行われる。入場料は無料で、若い世代が来場しやすいことも大きな特徴だ。目まぐるしい速度でファッションが消費され、また無限の映像イメージが高速でやり取りされる現代の人々に、『写真』と『衣服』の物質感、そしてそこに宿る「かっこよさ」を感じてもらいたい。そんな高木の意図が強く表れた展覧会となっている。

《同時多発的装飾 Parallel Styles: Shibuya x The Other Side》(2026)の展示風景。2000年代の個性的なファッションをまとう渋谷の人々と、民族衣装を身につけた人々を同時に映し出す本作は、双方に共通する美意識が浮かび上がっている