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特別展「星の瞬間 アーティストとミュージアムが読み直す、Hokkaido」(北海道立近代美術館)会場レポート。北海道美術の重層を示す【4/6ページ】

 1963年に札幌に生まれた伊藤隆介は美術家であり実験映画作家だ。伊藤は同館収蔵の「箱館焼」に着目してインスタレーションを制作している。箱館焼は江戸時代末期、美濃焼の陶工を函館に招聘してつくられた陶磁器だ。当時の北海道の風景や先住民の生活などが図案として採用された。その後、定着はしなかったものの、北海道の歴史の断片のひとつであることは間違いない。

展示風景より、伊藤隆介《風景考》(2024)

 伊藤は当時の樺太の風景を図案にした《染付湯呑茶碗・唐太之内ヲチョボロ》(1860)を、インスタレーションの中心に据えた。湯呑に描かれた、制作者たちが実際に見たかも定かではない樺太の光景が、マクロレンズによって捉えられ、周囲の壁面に投射されて回転する。加えて、その他小さなモニターやタヌキの剥製などが、近代の幻影が生み出し方のような風景をつくり出した。

展示風景より、伊藤隆介《風景考》(2024)

 同館の企画推進課長である門間仁史は、70年代から00年代にかけて札幌で活躍した知られざる画家、木路毛五郎(きじ・けごろう)を取り上げている。樺太生まれで、北斗や釧路で育ったのち上京。武蔵野美術大学西洋画科に進み、東京を拠点に活動する。ニューヨークでの活動を経て71年以降、札幌で活動をすることになる。

 木路は71年の札幌時計台ギャラリーの機関誌『21ACT』の創刊に携わり、77年より北海道美術館協力会の創設・運営にも関わった。また、79年の札幌市民ギャラリー建設期成会の設立参加など、北海道の美術史においては重要な役割を果たしている。画家としても北海道を拠点とする気鋭の画家として評価されたほか、94年以降描き続けた「白い妖精」シリーズで00年の第5回小磯良平大賞展に入選、翌年の第6回展では佳作を受賞している。本展では、これまで光を当てられていたとは言い難い木路の活動を振り返るため、《疎外された人間 その1》(1970)などを展示している。

展示風景より、左から木路毛五郎《疎外された人間 その1》、《虚と実》(ともに1970)

 また木路は、吉村益信の発案をもとに設立された「アーティスト・ユニオン」の札幌地区事務局の代表でもあった。全国で地方展を展開してきた同ユニオンは、76年に「北海道シンポジウム」を旭川で開催。道内外の作家が集まり、展示やシンポジウムを行ったという。この開催に尽力した、旭川における現代美術の第一人者・一ノ戸ヨシノリの《国旗》(1970)なども展示されており、北海道の現代美術史を知る一端となっている。

展示風景より、一ノ戸ヨシノリ《国旗》(1970)

編集部

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