大型作品を運ばない? 変わり始める作品輸送
では、コスト上昇に対してギャラリーや美術館はどのように対応しているのか。アジが指摘するひとつの変化が、より早い段階からの輸送計画だ。「直前に手配する緊急輸送は、ますますコストが高くなっています。そのため、ギャラリーや美術館は数ヶ月前から展覧会のスケジュールを組み、割高な緊急輸送ではなく、通常の貨物スペースを確保しようとしています」。
複数の作品をまとめて輸送する「コンソリデーション(consolidation)」も広がっている。作品を1点ずつ個別に送るのではなく、購入作品やアートフェアへの出品作をひとつの輸送にまとめ、クレート内のスペースを最大限活用することでコストを抑える方法だ。

さらに興味深いのが、輸送環境の変化が「どの作品を運ぶのか」という選択そのものにも及んでいる点だ。アジによると、「キュレーターやギャラリーは以前よりも選択的になっており、比較的軽量な作品や、輸送しやすいメディウムを選ぶケースも見られます」。キャンバス作品についても、完成した状態で大きな木枠ごと輸送するのではなく、キャンバスを巻いた状態で送り、現地の専門スタッフがストレッチャーに張ることで容積重量を抑える方法が採用されているという。

美術品輸送費の高騰は、たんにギャラリーの経費を増加させるだけではない。どの作品を海外で見せるのかという、展示や販売の内容にまで間接的に作用し始めているのである。同時に、香港やソウル、シンガポールなどに作品や展示資材を保管する動きも強まっている。海外からアジアへ作品を運び、展覧会やフェアが終わるたびに欧米へ戻すのではなく、次の展示や取り引きに備えて地域内に保管することで、長距離の往復輸送を減らす。
アジによれば、こうした地域拠点の活用によって、国際輸送に伴う経済的コストだけでなく、CO2排出量も抑えることができる。物流費の上昇への対応とサステナビリティという、一見別々に見える課題が、ここでは同じ方向を向き始めている。



















