「輸送」は事後的な業務から、出展判断の前提へ
2024年に設立されたEythosは、香港、ソウル、シンガポールを拠点に、美術品や高額資産の保管、輸送、インスタレーション、額装、保存修復、テクニカル・ハンドリングなどを手がける企業だ。今年のソウル・アートウィークではフリーズ・ソウルの推奨物流パートナーを務めるほか、Kiaf SEOULの出展者をサポートし、デザイン・マイアミ・ソウルの優先配送業者にも選出されている。また、セファ美術館で開催されるゲオルク・バゼリッツ展や、タデウス・ロパックのソウルでの展覧会などでも物流・設営を担当する。
Eythosのチーフ・オブ・スタッフ、ゾーラ・アジは、現在の地政学的緊張がアジアの美術品輸送にも明確な影響を及ぼしていると指摘する。とくに影響が現れているのが航空輸送だ。「中東周辺をはじめとする主要な国際貿易ルートをめぐる地政学的緊張は、グローバルなサプライチェーンに新たな不確実性をもたらしています。アジアの美術品物流では、とくに航空輸送と海上輸送の安定性への影響が顕著です」とアジは話す。

紛争地域を回避するための航路変更や飛行時間の長期化、ジェット燃料費の上昇などによって、航空貨物のサーチャージも上昇している。「美術品は、一般的な大量貨物とは異なり、安全性や温湿度管理、迅速なハンドリングを重視する特殊な貨物です。しかし、より大きなマクロ経済の変化から完全に切り離されているわけではありません」。欧米との大陸間輸送が頻繁に行われるアジアのギャラリーやコレクターにとって、美術品の移動にはこれまで以上に慎重な判断が求められているという。
実際、ここ数ヶ月では複数の変化が生じている。紛争地域を避ける航空機の迂回によって、作品の到着までに数時間から数日の遅れが生じるケースがあり、それに伴って輸送中の温湿度管理や不測の事態に備えた計画もより重要になった。また、緊急の燃料サーチャージや一部航路における貨物スペースの制約は輸送費を押し上げている。
保険をめぐる状況も変化している。「保険会社は、とくに不安定な地域を迂回するルートや、複数の輸送手段を組み合わせるケースについて、輸送経路をより慎重に精査するようになっています」とアジは説明する。美術品輸送保険そのものは引き続き機能しているものの、作品が梱包されてから展示・保管先で開梱されるまでを包括的にカバーする、いわゆる「ネイル・トゥ・ネイル」の保険料にも、現在のリスク環境が反映されているという。

こうした状況は、アートフェアへの出展判断にも影響を与え始めている。アジによれば、かつて物流は、ギャラリーがアートフェアへの出展を決めたあとに検討する「事後的な運営業務」として扱われることも少なくなかった。しかし現在では状況が異なる。「いまでは、運賃の見積もりや通関手続きの複雑さ、現地でのハンドリング費用までが、アートフェアの採算性を判断する主要な要素として、最初から計算に組み込まれています」。
つまり、「このフェアに出るか」を決め、その後で「作品をどう運ぶか」を考えるのではない。作品を運ぶためにいくら必要なのかまで含めて、「このフェアに出る意味があるのか」が判断されるようになっているのだ。



















