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田中みゆきの『誰のためのアクセシビリティ?』から小森真樹の『楽しい政治』まで。2025年1月号ブックリスト

新着のアート本を紹介する『美術手帖』のBOOKコーナー。2025年1月号では、田中みゆきの『誰のためのアクセシビリティ? 障害のある人の経験と文化から考える』から、アンジャン・チャタジーの『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』、小森真樹の『楽しい政治 「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』まで、注目の8冊をお届けする。

評=中島水緒(美術批評)+青木識至(美術史学)

『而今而後 批評のあとさき 岡﨑乾二郎批評選集 Vol.2』

岡﨑乾二郎=著
亜紀書房 3900円+税

 連続刊行されている批評選集の第二弾。2000年開催の「原宿フラット」における伝説の講演録、1990年代に刊行された知る人ぞ知る美術批評誌『FRAME』の寄稿文など、過去の貴重なテキストから近年までの仕事を多数収録する。強靭な論理構造を誇るテキスト群には、美術作家だけでなく、楳図かずお、ジャン=リュック・ゴダール、ボブ・ディランといった多様なジャンルの表現者たちの名が並ぶ。パブリックをめぐる議論にせよ芸術作品の読解にせよ、それぞれのテキストの根底にあるのは、「生存」の条件を問う態度にも思えてくる。(中島)

『芸術の知性』

トーマス・クロウ=著、長谷川宏+林道郎=訳
水声社 3500円+税

 アメリカの美術史家による1999年の著作の邦訳。マイヤー・シャピロは中世フランスの石像彫刻のどういった側面にフォーカスし、クロード・レヴィ= ストロースはアメリカ北西海岸の先住民の仮面にアプローチするためにどのような理路を経たか。あるいは、マイケル・バクサンドールが彫刻作品の考察を通じて概観しようとした「歴史の終わり」とは。複数の研究者たちの方法論に共通する、「境界線上にある事例」の取り上げ方に着目し、その解釈法を紹介しながら美術史を読む力を促す。マニアックな事例も多く、解釈法を究めたい読者向け。(中島)

『なぜ人はアートを楽しむように進化したのか』

アンジャン・チャタジー=著
田沢恭子=訳
草思社 2700円+税

 いついかなる時も私たちを魅了し、驚かせ、苛立たせてきた「アート」。この摩訶不思議な文化的産物を、近年伸長が著しい脳科学の成果は、どのように説明するのだろうか。神経科学と進化心理学を専門とする著者が、脳の働きと進化の力に対する深い知見から、私たちの心と世界の結びつきが生み出す美的経験の仕組みを平易な文章で解き明かす。美、快感、アートの3部から構成される科学と人文学を架橋する意欲的な試み。豊富かつシンプルな具体例と、丁寧に積み重ねられる論証は、専門知識を持ち合わせない読者にも親しみやすい。(青木)

『誰のためのアクセシビリティ? 障害のある人の経験と文化から考える』

田中みゆき=著
リトルモア 2000円+税

 アクセシビリティという言葉からは、どのような身体的・精神的条件を備えた人でも文化や情報を享受できる社会への理念が感じられる。しかし、障害者/健常者の非対称的な関係性、真のニーズに沿った環境設計など、十分にクリアできていない課題はいまだ多い。視覚障害者のための「音で観るダンス」プロジェクト、AIを活用した絵画鑑賞ワークショップなどに関わってきた著者が、「現場主義」ともいうべき立場からアクセシビリティを再考。最新技術を導入する柔軟な発想に加え、人との対話を重んじる姿勢が学びとなる。(中島)

『装いは内破する 身体と状況から創造へ』

西尾美也=著
左右社 3500円+税

 衣服を身にまとう装いのプロセスを起点に、国内外で数多くのアートプロジェクトを手がけてきた著者による思考の集積。コミュニケーションを円滑にすると同時にそれを先回りして規定する装いの「閉鎖性」を、自分ではない誰かと共創する「ワークショップ」の形式によって内側から変質させること。著者自らが「内破」と定義するその身振りは、日々の規範的な振る舞いに絡め取られた他者関係に創造的な揺さぶりをかける。研究者=実践者としての調査報告と私的な回想が同居する本書は、作家の活動を記録するアーカイヴの実践としても興味深い。(青木)

『楽しい政治 「つくられた歴史」と「つくる現場」から現代を知る』

小森真樹=著
講談社 2500円+税

 政治の「過去」を知り、「いま」を知ることが、社会をつくり自らの居場所を整える参加の楽しさになる。現代アメリカ文化論に根ざした映画やテレビドラマの分析を足掛かりに、インターネットを舞台に複層化する「現場」に読者を誘う本書の関心は広い。他者と共存するコミュニケーションの在り方を問い直す著者が示唆するのは、時にフィクションよりも厄介な現実との「楽しい」関わり方だろう。比較的容易に入手可能な書籍や映画のリストを含む巻末のキーワード事典は読み物としても楽しい。ぜひ本書を片手に作品鑑賞を試みてはいかがだろうか。(青木)

『移住』

露口啓二=著
赤々舎 7000円+税

北海道の風景と歴史に眼差しを向けてきた写真家が現在取り組む「移住」シリーズ、その336ページに及ぶ大冊。アイヌ民族や内地からの入植者が「移住」した北海道、開拓使の置かれた東京や札幌──ここで編まれた年表と写真は、語られず、不可視化されてきた時間と空間を浮かび上がらせる。そして、その空間は福島の帰還困難区域、皇居周辺……と偏在している様が、迫力を持ってとらえられている。

『現代美術作家・加賀美健の最近、買ったもの。』

加賀美健=著、奥野武範=構成・文
PARCO出版 2000円+税

ひょっとこのお面、ミッキーの直筆サイン、デッカいサングラス……加賀美健が海外のマーケットや街中のお店で出会い、Amazonやメルカリでクリックした30の「ヘンな買い物」が披露される。購入の際の顛末や、利用法などを楽しく話す語り口のなかに垣間見える、人間の真理や奥深さのようなもの、にふれる瞬間が訪れる(かもしれない)。(編集部)

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