マルタン・マルジェラ《PODIUM》──人工毛に覆われた巨大な「台」
本芸術祭でもっとも大きな話題のひとつが、マルタン・マルジェラの参加だろう。2008年にファッション界を離れて以降、アーティストとして活動するマルジェラ。今回は、アーツ前橋とまえばしガレリアなどを舞台に作品を展開している。

なかでも押さえておきたいのが、日本初公開となる《PODIUM》(2024)だ。タイトルは演壇や表彰台を意味するが、その構造物は人工毛に覆われ、もとの用途や機能を判別しづらい異様な物体へと変貌している。人の身体を支えるはずの「台」が、人間の身体を思わせる毛によって覆い尽くされる。人工物なのか、生物なのか。その境界は曖昧だ。
衣服を通じて身体の表面と内部、見えるものと隠されるものを問い直してきたマルジェラの思考が、彫刻的なスケールへと拡張された一作と言えるだろう。
まえばしガレリアやShop rin art associationでは彫刻作品なども展示されており、アーツ前橋とは異なる空間でマルジェラの複数の作品を見ることができる点も今回の大きな特徴だ。




石川直樹「伝次郎への旅」──赤城山からヒマラヤへ、前橋と世界をつなぐ写真
この芸術祭がただ著名作家を前橋に招くイベントではないことをよく示すのが、写真家・石川直樹の展示「伝次郎への旅」だ。

石川が着目するのは、日本人として初めてヒマラヤを撮影した写真家・長谷川傳次郎と、日本のスキー史に大きな足跡を残し赤城山に暮らした猪谷六合雄だ。1930年に千島で共同生活を送り、ヒマラヤ行きを夢見ながら戦争によってそれを果たせなかった2人の軌跡に、石川自身がカシミールやナンガ・パルバット、赤城山などで撮影した写真が重ね合わされる。
世界各地を旅し続けてきた石川の写真が、赤城山という前橋にとって身近な山を起点として、過去の冒険家たちの記憶へとつながっていく。遠いヒマラヤと前橋が、個人の記憶と移動の歴史を媒介としてひとつの線で結ばれる。土地の歴史を現在から読み直す、本芸術祭らしい展示のひとつだ。



















