「第16回光州ビエンナーレ」開幕レポート。「You Must Change Your Life」が問いかける変化の速度とスケール【2/3ページ】

土地が人をつくり、人が土地をつくる

 第3ギャラリー「Landscapes and Learning」では、人間が土地をかたちづくると同時に、土地や都市の歴史が人間の知識や生活をかたちづくるという相互関係が扱われる。農業や教育、共同体に加え、都市空間に残された政治的な痕跡もまた、このギャラリーを構成する要素のひとつだ。この展示室は「風景と権力の関係を再考する」場として位置づけられている。

手前がロッセラ・ビスコッティ《The Heads in Question》(2009〜15) 16th Gwangju Biennale, Gallery 3, Installation View, Photo: Jeon Byung Cheol © Gwangju Biennale Foundation

 ロッセラ・ビスコッティの《The Heads in Question》(2009〜2015)は、その一例と言える。作品のもとになったのは、1942年にローマで開催予定だった万国博覧会のために制作された、国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ3世とベニート・ムッソリーニの巨大な頭部彫刻だ。第二次世界大戦の勃発によって博覧会は中止されたものの、ファシスト政権が計画した都市開発はのちにEUR地区として完成した。ビスコッティは2009年、その地区の建物の地下で、長年公に展示されることなく保管されていた5点のエマヌエーレ3世とムッソリーニの製頭部を発見した。

 その後、ビスコッティはこれらの頭部からシリコンとアクリル樹脂による型を制作。本展で展示されているのは、権力者の肖像そのものを再現した完成像ではなく、複製を生み出すための「型」だ。鮮やかな青色の頭部は切断され、内側が露出し、木製パレットの上に置かれている。記念碑として権威を示すためにつくられた像は、ここでは柔らかく、不安定で、内部が空洞になった物体へと置き換えられている。

 本作を通してビスコッティが焦点を当てるのは、ファシズムの象徴を保存するか破壊するかという二者択一だけではない。過去の権力を象徴するイメージが、都市や制度のなかにどのようなかたちで残存し、別の時代に再び見られ、解釈されるのか。その複製と展示のプロセス自体が、歴史的イメージの意味が固定されることなく変化し続けることを示している。

リジア・クラーク「Bicho」シリーズ(1960) 撮影=筆者

 また、ブラジルのネオ・コンクリート運動を牽引したリジア・クラークによる作品群も紹介されている。「Bicho」シリーズ(1960)は、蝶番で接続されたアルミニウム板からなる作品。板を折り曲げることで形態が変化し、ひとつの完成形に固定されることはない。クラークは絵画や彫刻から出発しながら、次第に身体や触覚、鑑賞者の参加へと関心を移していった。本展では「Bicho」シリーズとともに、のちに彼女が展開した身体的・治療的な実践を記録する映像作品《Memória do Corpo》(1984)も紹介されている。

闇のなかから、時間のスケールは宇宙へ

 第4ギャラリーに入ると、会場は一転して照明の少ない暗い空間となる。「Cosmos and Change」と題されたこの空間では、映像作品を中心に、神話、祖先の記憶、地質学的時間、そして人間以後の世界にまで時間と空間のスケールが広げられていく。

ルー・ヤン「DOKU」シリーズ 撮影=筆者

  ルー・ヤンは、自身の姿をもとにモーションキャプチャーで制作したデジタルアバター「DOKU」を主人公とする映像シリーズを展開。本展では《DOKU the Self》(2022)、《DOKU the Flow》(2024)、《DOKU the Creator》(2025)の3作品を紹介している。仏教思想や輪廻、空、身体の無常といった主題を、ゲームエンジンや3DCG、生成AIなどの技術と接続しながら描いた。

 本シリーズを通して、DOKUは複数の世界や身体を横断し、自己を固定された存在ではなく、周囲の条件によって絶えず形成され直すものとして示されている。過去・現在・未来が併存するような時間感覚も、第4ギャラリーが扱う宇宙的なスケールと重なる。

中央と右壁面がソーラブ・フラ《The Coast》(2013〜2019)16th Gwangju Biennale, Gallery 4, Installation View, Photo: Jeon Byung Cheol © Gwangju Biennale Foundation
ソーラブ・フラ《The Coast》(2013〜2019)の写真シリーズより 撮影=筆者

 ソーラブ・フラの《The Coast》(2013〜2019)は、インド・タミル・ナードゥ州の海岸で行われるカーリー女神の祭礼を捉えた写真と映像作品だ。踊りや音楽、トランス、海への浸水を通じ、参加者の身体や感情、自己認識が一時的に変容していく様子を追う。破壊と再生の双方に結びつくカーリーの祭礼に、変化を日常のリズムに組み込まれた実践として描いている。