• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「アンドリュー・ワイエス展」(豊田市美術館)開幕レポート。「…

「アンドリュー・ワイエス展」(豊田市美術館)開幕レポート。「境界」の向こうでかすむ孤独と独立のアメリカ【5/6ページ】

第4章「まなざしのひろがり」

 第4章「まなざしのひろがり」も、周辺の風景や静物といった「不在」を感じさせるワイエスのモチーフが多く紹介されている。

《乗船の一行》(1982)パネルにテンペラ 70.5×50.8cm。メイン州の海岸近くにある家の窓辺の風景を描いた作品

 《乗船の一行》(1982)には、表題のような「一行」の人物は1人として描かれていない。誰も座っていない椅子と何もないテーブル、窓の外にはヨットの帆が光を浴びて白く輝く。椅子に座っていた人々は、ヨットに乗り込んだのだろうか。この空間に居た人々、交わされていた会話、その仕草も手振りも描かれていないが、過ぎていった時間だけははっきりと感じ取ることができる。

《モデルの椅子》(1982)紙に水彩 53.3×73.6cm。モデルが不在であることによって、その人物像を浮き上がらせようという試みが見える

 《モデルの椅子》(1982)は、モデルが着用していたシャツがかけられた椅子がメインのモチーフとなっている作品だ。モデルとなっていたのはアン・コールという女性であり、彼女を描いた水彩作品も数点あるものの、本作ではその姿は認められない。モデルの不在を示す白いシャツと、彼女が座っていたであろう椅子は、どのような人物がそこにいたのか、という見る者の思索をうながす。傍らに添えるように置かれた卵は、構図に調和をもたらすと同時に、モデルがどのような人物であったのかを想像させるモチーフにもなっている。

編集部