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「アンドリュー・ワイエス展」(豊田市美術館)開幕レポート。「境界」の向こうでかすむ孤独と独立のアメリカ【3/6ページ】

第2章「光と影」

 第2章「光と影」では、ワイエスが陰影の「あわい」を卓越した技術によって表現していったことを示す作品が並ぶ。

 本章ではワイエスが好んだテンペラと水彩の2つの画法を意識して見るのがおすすめだ。テンペラは顔料を水で溶き、卵などの乳化作用を持つ物質を混ぜることで定着させる技法。ルネサンス期以前、油彩が登場するまでは主流だったものの、20世紀において積極的に取り入れる向きは稀だったと言える。乾燥が早く、つねに水分を加えながら一気に描き上げる必要あるため技術を要するが、ワイエスはそのマットな質感、シャープな線描、透明表現の豊かさなどを求めて用いていた。

《粉挽き場》(1962)パネルにテンペラ 77.5×130.8cm。ワイエス夫妻が購入した古い粉挽き場と穀物倉が描かれている

 《粉挽き場》(1962)は、テンペラの魅力がよく表れた作品といえるだろう。本作はワイエス夫妻が新居として購入したばかりの古い粉挽き場を描いた作品だ。ふたりの門出の象徴ともいえる建物がモチーフとなっている本作には、光と影の要素が多重に絡み合う。上空を飛ぶ2匹の白い鳥や、曇天のなかうっすらと差して建物を照らす陽光などは希望を象徴しているようにも感じるが、庭木や背景の林は枯れており、木製の柵と有刺鉄線もどこか寂しげだ。テンペラならではの乳白色で表現されたくたびれた壁や、つやが抑えられた木々の寒々とした表情は、本作にたんに明るいとも暗いともいえない、陰影の同居による独特の世界を与えている。

左から《三月の嵐》(1960)紙にドライブラッシュ・水彩、《凍りついた家》(1978)紙に水彩。《凍りついた家》はワイエス家の隣人のドイツ系移民、カール・カーナ―の家の玄関を描いている
左から《スプール・ベッド》(1947)紙に水彩 55.9×76.5cm、《メイン州イースト・フレンドシップ》(1944)ウォーヴ紙に水彩・グラファイト 54.9×74.9cm。《スプール・ベッド》はベッドの木製部分が「糸巻(スプール)」に似ていることから名づけられており、少ない色でもその形状がよく表現されている

 いっぽう、《凍りついた家》(1978)を見れば、ワイエスの水彩画の技術の高さが伝わってくる。雪と氷に閉ざされた隣家の玄関を描いた本作は、陽光と雪に反射した光、建物の壁面に落ちている影の多彩な表情などが、水彩ならではの滲みを生かした階調によって表現されている。また、《メイン州イースト・フレンドシップ》(1944)の屋外の生い茂る木々の深い色合いや、《スプール・ベッド》(1947)の窓から差し込み光などにも同種の水彩の妙が感じられる。水彩の複雑な色調によって、ワイエスは多彩な色と光を生み出していった。

編集部