第1章「ワイエスという画家」
第1章「ワイエスという画家」では、ワイエスの生い立ちを紹介するとともに、その作風を端的に紹介する作品が並ぶ。。ワイエスは少年時代から91歳でこの世を去るまで、生まれ故郷であるペンシルヴェニア州と、夏の家があるメイン州の2つの拠点で生涯にわたって絵を描き続けた。したがって、絵の主題の多くもこれらの土地や家に根ざしたものとなっている。

1945年、ワイエスに絵の技術を教えた父が突然の事故で世を去ったことは、その人生において非常にショッキングな出来事であり、また画家として自身の道を歩むことを決意する契機でもあった。本展の最初に展示されている《自画像》(1945)は、父が亡くなった年に描かれたものだ。自らの道を開拓していこうとする、20代後半の若きワイエスの姿が表れた作品といえる。

本章で強い印象を残すのは《火打ち石》(1975)だ。海岸の巨石は斜面にあるのだろうか、斜めになった地平線の上に曇天のなか差した光を浴びてそそり立っており、圧迫感と不安定さが同居する奇妙な存在感を持っている。画面左には平行に引かれた水平線が覗いており、手前にはカモメが残していったと思われるエビの残骸や羽が見下ろすように落ちており、遠近の感覚が複雑に入り組む。ポップ・アートや抽象表現主義といった当時のアメリカの美術の動向と距離を起き、田舎の風景を主題に据え続けた保守的な画家とされることが多いワイエスだが、その構図や遠近の表現には前衛的な感性を見て取ることができる。



















