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「アンドリュー・ワイエス展」(豊田市美術館)開幕レポート。「境界」の向こうでかすむ孤独と独立のアメリカ【4/6ページ】

第3章「オルソン・ハウス」

 第3章「オルソン・ハウス」では、ワイエスが長く作品の題材にし続けた、メイン州のオルソン・ハウスが描かれた作品を取り上げている。オルソン・ハウスは、ワイエスと妻、共通の友人であったクリスティーナとアルヴァロのオルソン姉弟の自宅のことで、ワイエスはこの家と周辺の人々を題材に描き続けた。

《クリスティーナ・オルソン》(1947)パネルにテンペラ 83.8×63.5cm、右が鉛筆による習作2点(ともに1947)。比較することでワイエスがスケッチに様々な要素を付け加えて絵画に物語性を加えていたことがわかる

 本展のメインビジュアルにも使用されている《クリスティーナ・オルソン》(1947)は、オルソン・ハウスの象徴的存在としてワイエスが幾度も描いたクリスティーナの姿を描いたものだ。進行性の病で足が不自由だった彼女は、夫妻の友人として長く関係を築き、ワイエスは彼女をモデルとした作品を多く残した。本展で紹介される《クリスティーナ・オルソン》(1947)は、裏口の踏み段に腰かけて休むクリスティーナの遠くを見る印象的な横顔と、家の中に差し込む光と屋内の暗がりの対比を印象的に描いた1枚だ。本作は習作とともに展示されているが、習作に描かれているクリスティーナの姿は後ろで束ねられており、風になびく髪はワイエスによって加えられたものであることがわかる。写実的と評されることが多いワイエスだが、実際には複数のモチーフを組み合わせながら、画面上で物語を構築するように作品を制作していた。それはときに遠近法への忠実さを欠いていたり、陰影の対応関係が乱れていたりもするが、こうした必ずしも精緻な統合を目指していない点が、ワイエスの作品の独特の空気感を生み出している要因のひとつでもある。

左が《オルソン家の終焉》(1969)パネルにテンペラ 46.5×49.5cm、右が《オルソン家の終焉》の習作(1969)。中空から屋根を見下ろすような構図で俯瞰の距離を感じる作品

 オルソン・ハウスをめぐる物語は、本章の展示作品のいたるところから感じることができるが、《オルソン家の終焉》(1969)はワイエスがこの家とどのような思いで向き合っていたのかがとくによく伝わってくる作品だ。1967年にクリスティーナが、翌68年にアルヴァロが亡くなると、オルソン・ハウスは誰も住む者がいなくなった。煙が上がることがないこの家の煙突と、その先に佇むいつもと変わらない湾の対比は、ワイエスが愛したこの家の人々の不在を見る者に強く印象づける。人のいない部屋、誰も座っていない椅子、窓に映る人影といった「不在」を描くことで、逆説的にその存在を前景化させるワイエスだが、本作はオルソン家のふたりの存在が、画家にとっていかに大きかったのかが、喪失感とともに表現されている。

編集部