2022.6.17

『ブルーピリオド』からクリストとジャンヌ=クロード、池田修の追悼展示まで。今週末に見たい展覧会ベスト6

今週開幕した/閉幕する展覧会のなかから、とくに注目したい6つをピックアップしてお届け。最新情報は各館公式サイトを参照してほしい。

「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」展示風景より、実現後の様子を紹介する映像
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現役作家たちの初期作品も。「ブルーピリオド展~アートって、才能か?~」(寺田倉庫G1ビル)

展示風景より

   『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載中の、美大受験・美術大学を舞台としたマンガ『ブルーピリオド』。その作品を題材とした初の展覧会「ブルーピリオド展~アートって、才能か?~」が開幕を迎える。会場には、作中に登場した絵画作品が多数展示。主人公・八虎に転機をもたらした森先輩の天使の絵や、八虎が描いたF100号の大作《縁》の実物大複製画など、50点もの作中画を実際に鑑賞できる。

 また、現役のアーティストたちが参加している点も大きな特徴。「あの人のブルーピリオド」セクションでは、会田誠、小玉智輝、近藤聡乃、冨安由真、服部一成、水戸部七絵の6作家が参加。「ブルーピリオド」 とは、パブロ・ピカソの20代前半の画風を指すものであり、ここでは6作家が美術の道を歩みはじめた時期(ブルーピリオド)の作品がコメントとともに並ぶ。

 さらに、八虎のように悩みもがきながら、アートの道を志す若手アーティストを紹介・発掘する「ブルーアートプロジェクト」のひとつとして展開される「ブルーアートコラボレーション」も見ごたえがある。ここでは、現代美術家20名(前後期で展示替えあり)が作中に登場した3つの課題「私の好きな風景」「私の大事なもの」「自画像(本当の自分)」から1つを選び、作品を制作している。

会期:[前期]2022年6月18日~8月5日、[後期]2022年8月6日~9月27日
会場:寺田倉庫G1ビル
住所:東京都東京都品川区東品川2-6-4
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~20:00(入場は閉館30分前まで)※最新情報は公式ウェブサイトにて要確認
料金: 一般 2000円 / 大学・高校生生 1400円 / 中・小学生 900円(音声ガイド付きの場合は、一般 2700円 / 大学・高校生生 2100円 / 中・小学生 1600円)※「ブルーピリオド展入場券」ほか、オンラインで鑑賞する「ブルーピリオド展デジタル」、会場とオンライン両方でを楽しむ「特別チケット」の3種を販売。詳細・各種料金は展覧会サイトへ

追悼、池田修。「都市に棲む―池田修の夢と仕事」(BankART Station)

池田修

 2004年の設立以来、BankART1929を18年間牽引してきた池田修(1957〜2022)が今年3月、世を去った。BankART1929+池田修追悼実行委員会は、池田修の65歳の誕生日にあたる6月14日からの6日間、池田修を偲ぶ「都市に棲む―池田修の夢と仕事」を開催している。

 池田修は大阪生まれ。Bゼミスクール卒業後、「都市に棲むこと」をテーマに美術と建築を横断するチームPHスタジオを発足。代表作は広島のダム湖に沈む町でのプロジェクト「船、山にのぼる」。また、コーディネーターとしては、代官山ヒルサイドギャラリーディレクター(1986~1991)を経て、2019年よりアートフロントギャラリー取締役に就任。2004年からBankART1929の立ち上げと企画運営に携わり、2007年NPO法人化とともに理事長に就任、2009年度芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞した。没年64歳。

 会場では、献花台や、池田修のこれまでの仕事を振り返る展示などに加え、日替わりのトークイベントなども開催予定。同実行委員会はそれぞれのかたちで、池田修の考えていたこと、見ていたものを再確認することを通して、その生前を偲ぶとともに、この催しが私たちのこれからを考える機会になればとしている。

会期:2022年6月14日~6月19日
会場:BankART Station
住所:神奈川県横浜市西区みなとみらい5-1 新高島駅B1F
開館時間:11:00~19:00
観覧料:1000円(会期中再入場可)

巨大プロジェクトはいかに実現したのか。「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」(21_21 DESIGN SIGHT)

展示風景より、実現後の様子を紹介する映像

 昨年9月、パリのエトワール凱旋門を2万5000平米におよぶ青い布と3000メートルもの赤いロープで包んだクリストとジャンヌ=クロードのプロジェクト「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」。その制作背景と実現に向けた長い道のりに焦点を当てる企画展「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」が、21_21 DESIGN SIGHTで開幕した。

  「包まれた凱旋門」プロジェクトは、歴史的な建造物などを布で覆い隠す大規模なアートプロジェクトで知られる故クリスト(ブルガリア出身、1935~2020)とジャンヌ=クロード(モロッコ出身、1935~2009)が1961年に構想し、60年の年月を経てついに実現したもの。本展では、同プロジェクトを中心にふたりの人生において貫かれたものが紐解かれる。

 本展のクライマックスともいえるギャラリー2では、「包まれた凱旋門」と同じ布とロープを用いた空間インスタレーションを中心に、ナショナル・モニュメントを守りながら工夫を凝らしての設置中や実現後の様子をとらえた映像、そしてプロジェクトの施工に関する図面や関係者のインタビューなどが紹介。シネマティックな展示を通し、クリストとジャンヌ=クロードの創造性や、プロジェクトの実現に尽力した協力者の人間性、そして一般の鑑賞者の喜びを実感することができる。

会期:2022年6月13日〜2023年2月12日
会場:21_21 DESIGN SIGHT
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン内
電話番号:03-3475-2121
開館時間:10:00〜19:00(入場は18:30まで、6月13日〜17日は13:00〜19:00[入場は18:30まで])
休館日:火、年末年始(12月27日〜1月3日)
料金:一般 1200円 / 大学生 800円 / 高校生 500円 / 中学生以下無料 ※ギャラリー3は入場無料

12メートルの巨大ワニが登場。「ワニがまわる タムラサトル」(国立新美術館)

展示風景より、本展のために制作された約12メートルの巨大ワニの作品

 「まわるワニ」や「後退するクマ」、「登山する山」「バタバタ音を立てる布」など、機械仕掛けの作品を制作することで知られる現代美術家・タムラサトル。その個展「ワニがまわる タムラサトル」が国立新美術館でスタートした。

 タムラは1972年栃木県生まれ。95年筑波大学芸術専門学群総合造形卒業。作品から意味性や目的性を排除することをテーマとしながら主に電気で動く立体作品を制作ししアーティストとして活動するいっぽうで、日本大学芸術学部や宇都宮メディアアート専門学校でも教鞭をとっている。

 国立新美術館の開館15周年を記念して開催された本展では、タムラの代表作のひとつであるシリーズ作品「まわるワニ」を、新たに大規模なインスタレーション《スピンクロコダイル・ガーデン》として展開。新作の約12メートルの巨大ワニ1体や、大学在学中に制作した第1作目とワニの数・色・サイズを変えて制作したバリエーション作品の数々、そして10センチ〜15センチの小型ワニ約1100体を組み合わせて配置し、電力とモーターによって大量のカラフルなワニの彫刻が一斉に回転する壮大な作品となった。

会期:2022年6月15日~7月18日
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:050-5541-8600
開館時間:10:00~18:00(金土~20:00)※最新情報は美術館ホームページにて要確認
休館日:火
料金:無料

建築家の多面的な人生に迫る。「吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる」(東京都現代美術館)

展示風景より、手前は「大学セミナーハウス 油土模型(1:50)」(2004) 所蔵=公益財団法人大学セミナーハウス

 近代建築の巨匠ル・コルビュジエに師事し、「ヴェネチア・ビエンナーレ日本館」の設計などで知られている建築家・吉阪隆正(1917〜1980)。その活動の全体像を総覧することができるのが、今週閉幕する東京都現代美術館の「吉阪隆正展 ひげから地球へ、パノラみる」だ。

 その63年の生涯のなかで、建築だけでなく、教育者として早稲田大学で教鞭を執り、地域計画やアフリカ大陸と北米大陸横断、2年間のアルゼンチン赴任、インドや中国との国境を越えた交流など、地球を駆け巡るダイナミックな活動に取り組んだ吉阪。本展では、こうした多彩な顔を持つ吉阪の生涯と、建築を中心とした領域横断的な活動を時代やテーマによって紹介している。

 とくに最終章「有形学へ」は、吉阪が1960年代後半から亡くなる1980年まで行った都市や農村地域計画やフィールドワーク、研究などが集結。本展の担当学芸員である井波吉太郎は同章について、「新たに関係者へのオーラル・ヒストリー調査を行い、これまで断片的だった事実関係をつなげていくような作業をしながら企画した」と説明しており、貴重な展示となっている。

会期:2022年3月19日〜6月19日
会場:東京都現代美術館 企画展示室1階
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00〜18:00 (展示室入場は閉館30分前まで)
休館日:月(3月21日は開館)、3月22日
料金:一般 1400円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1000円 / 中高生500円 / 小学生以下無料

特撮の技術と情熱を紹介。「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」(東京都現代美術館)

展示風景より、岩田屋再現ミニチュアセット

 日本の映像史において重要な位置を占める「特撮(特殊撮影技術)」。この分野において大きな足跡を遺した特撮美術監督、井上泰幸の軌跡をたどる回顧展「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」は東京都現代美術館で今週末まで。

 本展は井上の生涯を、井上が手がけた各年代ごとの作品についての豊富な資料とともに追う展覧会。また、井上の作品に影響を及ぼした交友関係を知ることができる資料や、彫刻家であった妻の井上玲子の作品など、井上がいかに生き、何をつくったのかを丁寧にたどることができる。

 イメージを具現化するための独自フローを構築するなど、優れたディレクターとしての側面も持っていた井上。会場では具体的な造形物のみならず、井上が美術を通じて世界を構築するための工夫や技術を知ることができる資料が展示されており、作品を知らない人にとっても学びが多いのではないだろうか。

会期:2022年3月19日〜6月19日
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00〜18:00 ※展示室入場は閉館の30分前まで
休館日:月(3月21日は開館)、3月22日
料金:一般 1700円 / 大学生・専門学校生・65歳以上 1200円 / 中学・高校生 600円 / 小学生以下無料