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「『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」(三菱一号館美術館)開幕レポート

2023年4月からメンテナンスのため長期休館してきた三菱一号館美術館が再開館。再開館を記念する「『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」が開幕した。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

三菱一号館美術館

 2023年4月から1年半以上にわたり休館してきた三菱一号館美術館が再開館を迎えた。

 同館は2010年、東京・丸の内に開館。赤煉瓦の建物は、三菱が1894 年に建設した「三菱一号館」(ジョサイア・コンドル設計)を復元したものだ。今回の長期休館では、空調や照明設備の刷新、壁面と絨毯の色の変更、鉄部の錆や汚れの除去、床材の補修などが実施された。

 また、新たなスペースとして「小展示室」と「Espaceエスパス 1894」を開設。もともとミュージアムショップとして使われていた部屋を用途変更した「小展示室」は、開館以来の収蔵作品と寄託作品を、各学芸員が独自の切り口で展示・紹介するものだ。いっぽう「Espaceエスパス 1894」は多目的室であり、ワークショップやレクチャー、小展示など様々な用途に使われる。

再開館記念展は「不在」

 三菱一号館美術館の新たなスタートを飾るのは「『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」だ。本展は、同館コレクションの核でもある19 世紀末パリで活躍したアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864〜1901)の作品をあらためて展示するとともに、フランスを代表するアーティスト ソフィ・カル(1953〜)を招聘し、その創作活動を紹介するもの。カルは長年にわたり「喪失」や「不在」をテーマに制作活動を行ってきたアーティストであり、本展タイトル「不在」もカルからの提案によるものだという。

 会場は前半部分(3階)がロートレック、後半部分(2階)がソフィ・カルとなっており、2作家それぞれの個展のようなかたちになっている(なお、ソフィ・カルについてはメディアによる展示風景の撮影に制約があったため、本稿では掲載しない)。

 これまで同館ではオーソドックスな見せ方で紹介されてきたロートレックだが、今回は「不在」というキーワードを軸に構成が検討された。展示作品数は、フランス国立図書館から借用した版画作品11点を加えた136点。

 ロートレックはポスターなど印刷物を中心とした商業美術分野で活躍していたため、その没後も美術史では「不在」の時期=評価されなかった時期があった。1章「ロートレックをめぐる『存在』と『不在』」では、このロートレックの作品を守り伝えてきたモーリス・ジョワイヤンとともに、ロートレックによって存在を記録されたモデルや友人たちにフォーカスする。

展示風景より、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》(1891)

 3章の「『不在』と『存在』の可視化」はもっともよく本展テーマを反映したものだろう。象徴的なのは『イヴェット・ギルベール』の表紙だ。そこに描かれたのは長く黒い手袋にのみ。しかしその強烈な存在感によって、不在の持ち主の存在を強く伝えている。

展示風景より、《ロイ・フラー嬢》(1893、フランス国立図書館蔵)
展示風景より
展示風景より

編集部

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