昨年9月、パリのエトワール凱旋門を2万5000平米におよぶ青い布と3000メートルもの赤いロープで包んだクリストとジャンヌ=クロードのプロジェクト「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」。その制作背景と実現に向けた長い道のりに焦点を当てる企画展「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」が、21_21 DESIGN SIGHTで開幕した。
「包まれた凱旋門」プロジェクトは、歴史的な建造物などを布で覆い隠す大規模なアートプロジェクトで知られる故クリスト(ブルガリア出身、1935~2020)とジャンヌ=クロード(モロッコ出身、1935~2009)が1961年に構想し、60年の年月を経てついに実現したもの。本展では、同プロジェクトを中心にふたりの人生において貫かれたものが紐解かれる。
展覧会は、クリストとジャンヌ=クロードのパリでの出会いに始まり、「包まれた凱旋門」プロジェクトの構想から準備、設置、実現までの段階に沿って展開される。
地下ロビーでは、クリストとジャンヌ=クロードの過去の大規模プロジェクトを紹介する動画や、凱旋門周辺のパリ市街の模型、ニューヨークのスタジオで様々なプロジェクトを描くクリストの様子を紹介する写真パネルが展示されている。
ギャラリーに進むと、「包まれた凱旋門」プロジェクトの準備・実現段階に入る。ギャラリー1では、プロジェクト準備中の凱旋門の模型やドローイングのレプリカ、プロジェクトに使われた布とロープの製作・実験を紹介する動画などが並ぶ。
本展のクライマックスとも言えるギャラリー2では、「包まれた凱旋門」と同じ布とロープを用いた空間インスタレーションを中心に、ナショナル・モニュメントを守りながら工夫を凝らしての設置中や実現後の様子をとらえた映像、そしてプロジェクトの施工に関する図面や関係者のインタビューなどが紹介。シネマティックな展示を通し、クリストとジャンヌ=クロードの創造性や、プロジェクトの実現に尽力した協力者の人間性、そして一般の鑑賞者の喜びを実感することができる。
本展のディレクターを務めたフランスの映像作家パスカル・ルランは、「美術手帖」の取材に対して次のように話している。「通常、美術館に行くと、クリストとジャンヌ=クロードの芸術的なストーリーを見ることが多いです。しかし、ここはデザイン施設でもあるので、多くの人々が建築やテクノロジーに興味を持っていると思い、専門性の高いエンジニアや技術者、写真家などと協力してそのストーリーを伝えようとしたのです」。
「幸いなことに、今回のプロジェクトに関してクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団にたくさんの映像や写真資料を提供していただきました。私たちは、エンターテインメント性を高めるとともに、ビジュアルや写真、技術的な図面などを使い、クリストとジャンヌ=クロードのストーリーを視覚的に表現することに努めました」。
「クリストとジャンヌ=クロードの作品は、人々を幸せにし、驚かせ、そして時には穏やかにさせます。凱旋門は通常、軍隊や国家を象徴する建築物ですが、今回のプロジェクトでは完全に別のシンボルに変身しています。12本もの主要なアヴェニューが集結する場所で実現したこのプロジェクトは、都市デザインとしても非常に壮大なものです」。
展覧会の最後には、クリストとジャンヌ=クロードが砂漠にいる写真をアニメーション化した小さな映像作品が出現。これは、ふたりが1977年より構想していた、アラブ首長国連邦の砂漠で実現させる予定だった最後の大規模プロジェクト「Mastaba(マスタバ)」のために視察中の様子をとらえた写真だ。
その意図について、ルランはこう語っている。「『マスタバ』は、数年後に実現できるかどうかはわかりませんが、砂漠でつくられ、残っていてほしいという希望はとても強いです。砂が流れても、風が吹いても、それを夢見ていたふたりの痕跡は残るでしょう」。