2022.6.14

“包まれた凱旋門”はいかに実現したのか? 21_21 DESIGN SIGHTでたどるクリストとジャンヌ=クロードのレガシー

昨年行われた、パリのエトワール凱旋門を布で包むクリストとジャンヌ=クロードのプロジェクト「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」。その制作背景と実現過程をたどる企画展「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」が21_21 DESIGN SIGHTで始まった。

展示風景より
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 昨年9月、パリのエトワール凱旋門を2万5000平米におよぶ青い布と3000メートルもの赤いロープで包んだクリストとジャンヌ=クロードのプロジェクト「LʼArc de Triomphe, Wrapped, Paris, 1961–2021(包まれた凱旋門)」。その制作背景と実現に向けた長い道のりに焦点を当てる企画展「クリストとジャンヌ=クロード “包まれた凱旋門”」が、21_21 DESIGN SIGHTで開幕した。

 「包まれた凱旋門」プロジェクトは、歴史的な建造物などを布で覆い隠す大規模なアートプロジェクトで知られる故クリスト(ブルガリア出身、1935~2020)とジャンヌ=クロード(モロッコ出身、1935~2009)が1961年に構想し、60年の年月を経てついに実現したもの。本展では、同プロジェクトを中心にふたりの人生において貫かれたものが紐解かれる。

 展覧会は、クリストとジャンヌ=クロードのパリでの出会いに始まり、「包まれた凱旋門」プロジェクトの構想から準備、設置、実現までの段階に沿って展開される。

展示風景より、クリスト(左)とジャンヌ=クロードのポートレート写真

 地下ロビーでは、クリストとジャンヌ=クロードの過去の大規模プロジェクトを紹介する動画や、凱旋門周辺のパリ市街の模型、ニューヨークのスタジオで様々なプロジェクトを描くクリストの様子を紹介する写真パネルが展示されている。

展示風景より、過去の大規模プロジェクトを紹介する動画
展示風景より、パリ市街の模型
展示風景より、ニューヨークのスタジオでの様子を紹介する写真パネル

 ギャラリーに進むと、「包まれた凱旋門」プロジェクトの準備・実現段階に入る。ギャラリー1では、プロジェクト準備中の凱旋門の模型やドローイングのレプリカ、プロジェクトに使われた布とロープの製作・実験を紹介する動画などが並ぶ。

展示風景より、凱旋門の模型とプロジェクト準備段階の紹介動画
展示風景より、「包まれた凱旋門」プロジェクトのドローイングのレプリカ

 本展のクライマックスとも言えるギャラリー2では、「包まれた凱旋門」と同じ布とロープを用いた空間インスタレーションを中心に、ナショナル・モニュメントを守りながら工夫を凝らしての設置中や実現後の様子をとらえた映像、そしてプロジェクトの施工に関する図面や関係者のインタビューなどが紹介。シネマティックな展示を通し、クリストとジャンヌ=クロードの創造性や、プロジェクトの実現に尽力した協力者の人間性、そして一般の鑑賞者の喜びを実感することができる。

展示風景より、「包まれた凱旋門」プロジェクト設置中の様子を紹介する動画
展示風景より、実現後の様子を紹介する映像
展示風景より、技術的な図面の展示

 本展のディレクターを務めたフランスの映像作家パスカル・ルランは、「美術手帖」の取材に対して次のように話している。「通常、美術館に行くと、クリストとジャンヌ=クロードの芸術的なストーリーを見ることが多いです。しかし、ここはデザイン施設でもあるので、多くの人々が建築やテクノロジーに興味を持っていると思い、専門性の高いエンジニアや技術者、写真家などと協力してそのストーリーを伝えようとしたのです」。

 「幸いなことに、今回のプロジェクトに関してクリスト・アンド・ジャンヌ=クロード財団にたくさんの映像や写真資料を提供していただきました。私たちは、エンターテインメント性を高めるとともに、ビジュアルや写真、技術的な図面などを使い、クリストとジャンヌ=クロードのストーリーを視覚的に表現することに努めました」。

展示風景より
展示風景より、関係者インタビューの動画

 「クリストとジャンヌ=クロードの作品は、人々を幸せにし、驚かせ、そして時には穏やかにさせます。凱旋門は通常、軍隊や国家を象徴する建築物ですが、今回のプロジェクトでは完全に別のシンボルに変身しています。12本もの主要なアヴェニューが集結する場所で実現したこのプロジェクトは、都市デザインとしても非常に壮大なものです」。

 展覧会の最後には、クリストとジャンヌ=クロードが砂漠にいる写真をアニメーション化した小さな映像作品が出現。これは、ふたりが1977年より構想していた、アラブ首長国連邦の砂漠で実現させる予定だった最後の大規模プロジェクト「Mastaba(マスタバ)」のために視察中の様子をとらえた写真だ。

展示風景より、クリストとジャンヌ=クロードがアラブ首長国連邦の砂漠視察中の写真をアニメーション化した映像作品

 その意図について、ルランはこう語っている。「『マスタバ』は、数年後に実現できるかどうかはわかりませんが、砂漠でつくられ、残っていてほしいという希望はとても強いです。砂が流れても、風が吹いても、それを夢見ていたふたりの痕跡は残るでしょう」。