『月刊アフタヌーン』(講談社)で連載中の、美大受験・美術大学を舞台としたマンガ『ブルーピリオド』。その作品を題材とした初の展覧会が「ブルーピリオド展~アートって、才能か?~」だ(寺田倉庫G1ビル、6月18日〜9月27日。
『ブルーピリオド』は、高校生・矢口八虎(やとら)が、1枚の絵に心奪われたことをきっかけに、美術の世界へ身を投じていく物語。美術大学の受験や技術を高めるための努力、表現への葛藤などが情感豊かに描かれる作品で、美術ファンにとっても必読の作品となっている。
本展は、八虎が美大を目指す道のりを追体験するような展示構成。「ピカソの絵がわかんない」から始まり、「美術と出会った日」「青の渋谷シアター」「1次試験『自画像』」「2次試験『ヌード』」「合格発表」まで、合計12のセクションで物語を追うことができる。
会場には、作中に登場した絵画作品が多数展示。八虎に転機をもたらした森先輩の天使の絵や、八虎が描いたF100号の大作《縁》の実物大複製画など、50点もの作中画を実際に鑑賞できるのはファンにはたまらないポイントだ。
本展アンバサダーで音声ガイドも担当するお笑い芸人の川島明(麒麟)は6月16日の記者会見で「この絵って実在してたんだという感動がある。作品を色付きで見ることで、よりパワーを感じられる」と絶賛のコメントを寄せている。
「キャラ大石膏室」では、美大受験に欠かせない石膏像が東京藝術大学の大石膏室を思わせる空間に並ぶ。ダビデやブルータス、モリエールなど、石膏像ではおなじみの像にキャラクターたちが扮しており、会期中の平日はここで自由にデッサンすることも可能。作品を持ち帰ったり展示することもできる。
本展はただのマンガ作品展で終わらない。現役のアーティストたちが参加している点が大きな特徴だ。
「あの人のブルーピリオド」セクションでは、会田誠、小玉智輝、近藤聡乃、冨安由真、服部一成、水戸部七絵の6作家が参加。「ブルーピリオド」 とは、パブロ・ピカソの20代前半の画風を指すものであり、ここでは6作家が美術の道を歩みはじめた時期(ブルーピリオド)の作品がコメントとともに並ぶ。
例えば会田は、高校3年生の夏休みにお茶の水美術学院の夏期講習で描いた木炭デッサンを初公開。冨安は、1浪時に代々木ゼミナール造形学校で描いた油彩を、水戸部は高校3年の時に横浜美術学院で描いた油彩画《トマトのある静物》を展示している。キャリアにおいて見過ごされがちな予備校時代の作品にフォーカスするとともに、パネル展示によって各作家の変遷もたどることができるセクションだ。美術史家・荒木慎也による解説にも注目してほしい。
また、八虎のように悩みもがきながら、アートの道を志す若手アーティストを紹介・発掘する「ブルーアートプロジェクト」のひとつとして展開される「ブルーアートコラボレーション」も見ごたえがある。ここでは、現代美術家20名(前後期で展示替えあり)が作中に登場した3つの課題「私の好きな風景」「私の大事なもの」「自画像(本当の自分)」から1つを選び、作品を制作した。
前期(〜8月15日)では、岡田佑里奈や仲衿香、やんツーなど8作家の、後期(8月6日〜9月27日)では大西茅布やユゥキユキら12作家の作品が並ぶ。なお作品は実際に購入もできる。
会場ではこのほか、「山口つばさの部屋」として、原作者・山口つばさによる設定資料やデビュー前の作品も公開。ブルーピリオドが生まれた背景を垣間見ることができる貴重なセクションと言えるだろう。
本展では、開催に際して全国の美大受験予備校の生徒34名に単行本1〜6巻の表紙の描き下ろしが依頼された。キャラクターごとに木炭や鉛筆で描かれた素描(デッサン)や油彩画などの作品を再構成(コラージュ)することで生み出された6種のキービジュアル。「Key Visual Collection」では、キービジュアルを構成する全34点のオリジナル作品が展示の最後を飾る。
マンガ展とアート展との両面を持つ本展。この展覧会で生の美術をもっと見たくなった方は、天王洲に多数あるコマーシャルギャラリーを訪ねてみるのもひとつだろう。