「まわるワニ」や「後退するクマ」、「登山する山」「バタバタ音を立てる布」など、機械仕掛けの作品を制作することで知られる現代美術家・タムラサトル。その個展「ワニがまわる タムラサトル」が国立新美術館で始まった。
タムラは1972年栃木県生まれ。95年筑波大学芸術専門学群総合造形卒業。作品から意味性や目的性を排除することをテーマとしながら主に電気で動く立体作品を制作ししアーティストとして活動するいっぽうで、日本大学芸術学部や宇都宮メディアアート専門学校でも教鞭をとっている。
国立新美術館の開館15周年を記念して開催された本展では、タムラの代表作のひとつであるシリーズ作品「まわるワニ」を、新たに大規模なインスタレーション《スピンクロコダイル・ガーデン》として展開。新作の約12メートルの巨大ワニ1体や、大学在学中に制作した第1作目とワニの数・色・サイズを変えて制作したバリエーション作品の数々、そして10センチ〜15センチの小型ワニ約1100体を組み合わせて配置し、電力とモーターによって大量のカラフルなワニの彫刻が一斉に回転する壮大な作品となる。
「『なぜ、ワニがまわるのか』という問いに、答えはありません」と述べるタムラ。意味を考えながら制作を続け、「その結果『ワニがまわる』ことに意味があるのではなく、『よくわからないが、なぜかワニがまわっている』という不可思議なこの状況こそが、作品の面白さの本質であることに気づいた」(ステートメントより抜粋)という。
また、本展を担当した吉村麗(国立新美術館特定研究員)は「美術手帖」に対し、前知識がなく、子供でも大人でも初めて美術館を訪れる、誰もが楽しめるような展覧会を行うことを目的に本展を企画したとしつつ、タムラの作品の魅力について次のように語っている。
「タムラさんの作品には、ワニというモチーフの可愛らしさがあるいっぽうで、『これがアートだ』と見せることによって『アートって何なんだろう』という疑問を喚起するようなシュールな視点もある。その相反する魅力は、初めて展覧会を訪れる人々にとって、アートを発見する楽しみを持っていただけるのではないかと思う」。
また本展の開幕に先立ち、4月29日と5月3日にタムラの指導のもとに「まわるワニをつくる」というワークショップが国立新美術館で開催。2日間かけて小中学生9名と大人15名が参加し、それぞれ個性豊かな想像力を発揮して多様な「まわるワニ」を制作した。こうした作品は本展で見ることもできる。
このワークショップについて、吉村はこう続ける。「今年当館では、教育普及的な活動を積極的に行っていきたい。収蔵品のない美術館では常設展示を行うのが難しいが、1年間を通してアーティストを紹介したワークショップなどの連携を深めていきたいと考えている。タムラさんはこれまでの経験のなかで様々な方とワークショップを行っており、今回は一般の方でも展示のなかに参加できる要素があることを目指して展覧会を企画した」。
なお、吉村は本展が入場無料での開催となっていることも強調している。大量のカラフルなワニが回転し続けるこの展覧会をきっかけに、国立新美術館に気軽に足を運んでみてはいかがだろうか。