名古屋・栄の新ランドマーク「HAERA」に現れた奇妙な空間。西野達が仕かけたユーモアと親近感に満ちた非日常の体験とは【4/4ページ】

対峙する2つの「プロの仕事」。現代の価値観を押し広げるための入り口

 今回のプロジェクトにあたり、西野はステートメントのなかで「ものつくり王国」としての愛知や名古屋の文脈に触れ、それを身近な家具によって表現したいとも語っている。しかし、取材のなかでその話題を振ると、西野は現在の日本に対する危機感を口にした。

 「最近日本では、プロフェッショナルの仕事が蔑ろにされていると感じるんだよね。技術や力のある専門家による仕事ではなく、素人の話題性だけで注目される作品もあるでしょう」。

 そうしたなか、奇しくもこのHAERAでの設営作業は、西野に本物のプロの仕事を再確認させる機会にもなったようだ。

西野達

 「今回設営中にビルのなかを見ていたんだけど、ここに入っているようなトップメゾンの仕事というのは、本当に素晴らしい。商品はもちろん、内装や店内の映像まですごくつくり込んでいる。アートのプロフェッショナルさとは違う意味だけれど、いわゆる職人技、プロの仕事だと思ったよ」。

 1階に並ぶカルティエやシャネル、エルメス、ルイ・ヴィトンといった世界的なトップメゾンたち。彼らが顧客を満足させるために徹底する高度なクラフツマンシップに、西野は素直に賛辞を送る。他方、そうしたデザインや工芸のプロフェッショナリズムと、アーティストとしての自身の仕事には、明確に異なる目的意識や存在の意味があるとも続ける。

 「俺の仕事もメゾンの仕事も、プロであることは変わらない。でも、両者の在り方というのは真逆だと思う。例えば、俺はこの壁紙の絵をあえて下手くそに描いたり、違和感をつくろうとしている。それは、クラフトやデザインは、いま現在を生きる人の心を安心させたり魅了したりする仕事だけど、アートは100年後、200年後、300年後に残るものをつくる仕事だと思っているから。現代という時代にあえて違う価値観をぶつけることで、『こんな表現の仕方もあるんだ』と人類の想像力を拡げていく。アートはデザインとは違って既成概念の破壊行為なんだ」。

HAERA外観 ©ToLoLo studio

 新しく誕生したラグジュアリーモールのエントランスに西野がぶつけた、親しみと不調和が織り交ぜられた、奇妙な空間。「訪れる人たちには、『なんでこのビルの入り口にこんな作品があるんだろう?』と違和感を持つことによって、刺激を受けながら建物に入ってきてほしいよね」と西野は話す。

 手元の画面に視線を落としがちな現代において、頭上の奇天烈な家具たちと妙な内装は、否応なく私たちの視線を上へと引き上げる。その一瞬の「なんだ?」という引っかかりと、立ち止まる余白の時間が、私たちの想像力を静かに押し広げてくれる。日常がズラされるその場所は、HAERAの目指す創造性に満ちた空間への相応しい導入となっている。

編集部