名古屋・栄の新ランドマーク「HAERA」に現れた奇妙な空間。西野達が仕かけたユーモアと親近感に満ちた非日常の体験とは【2/4ページ】

感性を刺激する空間へと誘う、親近感とユーモアに満ちたエントランス

 このたびオープンしたHAERAは、三越や松坂屋、PARCOなどの並びに立つ「ザ・ランドマーク名古屋栄」の、地下2階から地上4階に65店舗を擁する商業施設だ。次の時代の街の賑わいをつくりたいとの願いを込めた「栄える+era」の意味を持つ施設名の通り、それぞれ個性的な店構えを展開するラグジュアリーブランドやセレクトショップ、幅広い用途に応えるレストラン群など、ファッションから食まで、多くの注目店舗が出店する。

HAERA外観 ©ToLoLo studio

 施設全体のコンセプトに「PUBLIC MUSEUM」を掲げ、商業的な効率や消費の促進だけを目的とするのではなく、建物を訪れる様々な価値観を持つ人たちにインスピレーションを与え、豊かな体験的価値を提供する環境づくりを目指している点にも、特色がある。

HAERA3階にあるスペース
三瓶玲奈の作品展示風景
定期的に展示替えが行われる「HAERA Art Gallery」。取材時は米山由夏の作品が展示

 内装設計は建築設計事務所「NOIZ」が担当。各階ごとに異なる表情の床や天井、デジタル的な動きと装飾を施された柱、棒状の照明が飾るエレベーターホール、3階のトイレ近くに現れる樹木が壁を貫く不思議な空間など、実際、フロアをウロウロするだけでも目が楽しい。エントランスで来館者を迎える西野達の本作をはじめ、館内各所には「The Chain Museum」がキュレーションするアート作品が置かれている。常設作品として、ひとつの風景を様々な条件下で描いた三瓶玲奈の絵画4点が置かれているほか、定期的に展示替えをするギャラリーも設置。取材時には米山由夏が描く、赤い抽象空間が存在感を放っていた。

 こうした空間に道行く人々を招き入れる上で、西野はどのようなことを考えたのだろうか?

 「じつは2年前に依頼をもらったとき、まだ建物は設計段階で、最終的な空間の姿はまったくわかっていなかった。そんななかで建物の立地を調べたら、ちょうどここは、名古屋市民に半世紀くらい愛されてきた『栄広場』があった場所なんだよね。俺も出身者だから何となく思い出があるんだけど、その跡地に建つんだったら、誰でも気軽に入館できる入口にしたいなと。それで、『リビングルーム』というコンセプトで考えはじめたんだ。シャンデリアと、壁紙と、じかに壁紙に描かれた家具でリビングルームをイメージさせることは初期段階でほぼ決まっていた」。

 シャンデリアを構成する家具は、新品に加え、アンティークのものを探して集めた。天井から吊るすに当たり、重量制限があったため、家具の中身をごっそり抜いたり、アンティークを参考に、職人により軽くつくってもらったりした個体も含まれているという。

大津通側から見える西野のシャンデリア作品
久屋大通側から見える西野のシャンデリア作品

 西野が手がけたエントランスは大津通側と久屋大通側の2ヶ所の角にあり、それぞれ別の形態のシャンデリアが掛かっている。大きなテーブルの上に、キャビネットやソファ、スツールなどが積み上げられた前者に対して、後者では縦長の本棚の下から伸びる、絨毯を巻かれた3つ足の先にそれぞれ棚が取り付けられており、与える印象は大きく異なる。

 また、壁紙には、先述の通りご当地モチーフや、室内を模すための騙し絵のような絵がプリントされていて、ユーモラスで楽しいのだが、じつは各空間には2つずつ、西野なりの意図を込めた隠れモチーフも存在。来館者の視線を上げさせるためにシャンデリアの下部にあえて大きく書いたと話す自身のサインを含め、空間には人々を惹きつける仕かけがいくつも詰まっている。

編集部