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西野達が語る、パブリック・アートが人類の未来に必要な理由

今年、渋谷の名所・ハチ公像で1日限りのアートプロジェクトを実行し、大きな注目を集めたアーティスト・西野達。これまで様々な公共空間で数多くのプロジェクトを行ってきた西野は、なぜパブリック・アートを続けるのか? そこには壮大な思いがあった。

聞き手=吉田山(アーティスト・キュレーター) ポートレート撮影=稲葉真

西野達

鑑賞者を「動かす」

──西野さんは「ホテル」シリーズで公共彫刻やモニュメントを包み込み、それを誰かが占有するということを実践してきました。西野さんがベースにしているドイツなどには「スクワット」(不法占拠)の文化があり、そうしたものとの関連性を思わせますが、ホテルとしても機能もしているという横断的な面白さがある。まずは昔の話から聞きたいのですが、1997年に初め彫刻を取り囲むプロジェクトをされていますね。そのきっかけ、ひらめきを教えていただけますか?

 俺はミュンスターの美術大学(Kunstakademie Münster)で学生をやっていたんだけど、ミュンスターはカトリックの街として歴史があると同時に、「彫刻プロジェクト」(Skulptur Projekte)という現代の立体作品に特化した国際的な展覧会を開催していることもあって、そこの美術館(LWL-Museum für Kunst und Kultur)は中世の宗教美術と最先端のアートが収蔵されているんだ。大きくない美術館なので観客は時代背景もアートの意味も違うその二つをほぼ同時に見ることになる。俺が面白く感じたのは、観客が現代アートを宗教作品と同じような視点で鑑賞しているように見えたこと。現代アートは宗教美術とは違う概念でつくられていることを気づかせるために、言葉通りに実際に視点を変える鑑賞装置としてのアート作品をつくり始めたんだ。現代アート作品に入り込んで宗教美術を眺めることで、美術の長い歴史や美術のコンセプトの変化を肌で感じさせる試みだった。

 宗教絵画の展示室の真ん中に高さ50センチ程度の台を設置してその上から作品を見下ろしてもらう、あるいは電話ボックスのような個室を置いて観客はその中の小窓から作品を覗くとかね。その後、作品の発表場所を屋外に移し、最終的にモニュメントを部屋で囲んだ《obdach》にたどり着いた。

 ──たぶんそうした作品をそれまで誰も見たことがなかったと思うんですが、当時の周囲の反応はどうだったんですか?

 周囲の反応は微々たるもの。まったく新しいことをやると反応が鈍いということはよくあるよね。理解できないんだ。友人以外の人が作品を見に来ることはなくて、痺れを切らした俺は近くのチョコレート美術館から出てきた観客を無理やり引っ張ってきたぐらいだから(笑)。でも、美大の教授のおかげで地元の新聞が記事を書いてくれたよ。

──その後、マンハッタンに立つコロンブス像にリビングルームを建設した《Discovering Columbus》(2012)や、シンガポールのマーライオンを取り囲んでホテルを建設した《The Merlion Hotel》(2011)ホテルシリーズを展開します。自主企画は最初の頃だけだったんですか?

 作家デビュー作品と言ってる1997年の《obdach》は全部自腹だったから、長期間はできなくて1週間だけの展示だった。足場のレンタル代を安く済ますために、3日で制作、3日公開、1日で解体っていうスケジュール。11月のライン川から吹き付けるみぞれ混じりの突風のなか、当時付き合っていたドイツ人の彼女と二人で建設していったんだ。最後は彼女も流石にキレてたけどね。

 無名の身分で持ってるアイデアを実現させたかったら、金集めと場所探しは自分でやるしかない。だからその後3年間くらいは毎年1つのプロジェクトを実現するのがやっと。98年の《mir ist seltsam zumute》は街灯の照明部分を取り込んで部屋を建てた作品だけど、道路を照らす街灯を壁で囲ってしまうのでほぼ違法建築のアイデア。それでもしつこい俺は、使用許可が出そうな街灯を探すためだけに半年間使ったよ。ドイツ中の都市をドイチェ・バーン(Deutsche Bahn)の学生向けの格安チケットで周り、駅からは一日乗車券で路面電車に乗り換えて車窓からこのアイデアに使えるかもしれない街灯を見て回った。半年後にブレーメンの郊外の街で、工事で通行止めになってる道路に立つ街灯を見つけて役所と交渉に入ったんだ。

西野達 Mir ist seltsam zumute 1998
Bremen, Germany
Photo by Carsten Gliese
©︎Tatzu Nishi
西野達 Mir ist seltsam zumute 1998
Bremen, Germany
Photo by Carsten Gliese
©︎Tatzu Nishi

 99年にドルトムントで見せた《das hab ich gaz zu gern》は、たまたま訪れた友人の部屋の真前に立つ街灯が作品に使えそうだと直感して許可を取りに行き、その1ヶ月後には引っこ抜いて部屋にぶち込んだ。そのあたりから「変なことをやる日本人アーティストがいる」と企画のオファーが来始めたんだ。

 なので俺はギャラリーや美術館といったいわゆるアートシーンからアーティスト活動を始めたんじゃない。一度草間彌生がやるようなギャラリーで展覧会したんだけど、観客の少なさにその展覧会後にすぐに屋外で作品を見せ始めたんだ。ある意味、俺は違ったかたちのストリートアーティストだね。

西野達 das habe ich gar zu gern 1999
Dortmund, Germany
Photo by Carsten Gliese
©︎Tatzu Nishi
西野達 das habe ich gar zu gern 1999
Dortmund, Germany
Photo by Carsten Gliese
©︎Tatzu Nishi
西野達 The Merlion Hotel 2011
Marina Bay, Singapore
Photo by biennale office
©︎Tatzu Nishi
西野達 The Merlion Hotel 2011
Marina Bay, Singapore
Photo by Yusuke Hattori
©︎Tatzu Nishi
西野達 The Merlion Hotel 2011
Marina Bay, Singapore
Photo by Yusuke Hattori
©︎Tatzu Nishi

様々な制約のなかで行われた「ハチ公」

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