見慣れたもののズレが生み出す、想像力の拡張こそがアート
アートファンにはなじみのある愛知芸術文化センターから、久屋大通を挟んで斜向かい。錦通と大津通、広小路通という大通りに囲まれた、名古屋を代表する商業エリアに、HAERAはある。6月初旬のある夕方、地下鉄栄駅から地上に出て、辺りを見渡すと、交差点に面したビルのコーナーに、さっそくその巨大な作品が見えてきた。

自動ドアの上部、「HAERA」というネオンサインの上に大きく広がったガラスの奥に見えるそのものは、一瞥しただけでは普通の大きな照明のようでもある。けれど、あらためてしっかりと目を向けてみると、その奇妙さに気づく。
天井から吊るされているのは、趣味の良さそうな年代物の家具がいくつも積まれることで構成された、おかしなシャンデリアだ。しかも、家具のいくつかはまるで画面上の画像を回転させたかのように90度横転、上下反転した状態で接続。机の脚にはやはり逆さになったテーブルランプが複数設置され、暖かい光を放っていた。空中に構築された調度品のオブジェには堂々たる雰囲気が漂っているが、しばらく見ていると天地のひっくり返るような浮遊感も覚える。数組の通行人がこの存在の不思議さに気づき、スマホのカメラを向けていた。

また、ガラスの奥の吹き抜けの空間には、一見高級そうな壁紙が張られているのだが、よく見るとその図柄は、金のシャチホコやきしめんなど愛知のご当地イメージたち。煌びやかな商業施設の入り口に、親しみある、どこかシュールな室内空間が挿入された感覚を覚える。
「日常の見慣れたものを違う視点で見せるのがアートだと思っているので。例えば、人がただ地面に立っていたら普通だけど、頭で立っていたら全然見え方が変わる。そのもの自体は同じなのに、場所をズラしたり、状況を変えたり、逆さにしたりするだけで『なんだ?』と想像が広がる。その想像力の拡張こそ、俺の考えるアートなんだ」。
そう話すのが、この不思議なエントランスの作者、アーティストの西野達だ。

1960年、地元の愛知県生まれ。街灯や家具、自動車などを本来あり得ない文法によって組み合わせた立体作品や写真作品、あるいは、シンガポールのマーライオンやニューヨーク・マンハッタンのコロンブス像のような都市を代表するモニュメントを取り込んで部屋を建て、ときにホテルとして営業するなど、公共空間と私的空間の曖昧化を試みるような作品で国際的に知られる。2023年には、渋谷駅前のハチ公の周りに24時間限定でベッドルームを仮設したアートプロジェクトも話題となった。
都市の日常に意外性を差し込むその手法は、今回も健在だ。名だたるメゾンが出店することでも注目される新施設の入り口に、あえて遊びのある個人の部屋を思わせる空間を立ち上げた西野。その企ての背景には、HAERAという施設の持つ独自の文脈もあるようだ。
































