森ビルが約300名の権利者と、約35年かけて開発を進めてきた「麻布台ヒルズ」(11月24日開業)。延床面積は約86万1700平米と、ひとつの「コンパクトシティ」と言っても過言ではない麻布台ヒルズは、「Modern Urban Village~緑に包まれ、人と人をつなぐ『広場』のような街~」”コンセプトに、「Green & Wellness」”(々が自然と調和しながら、心身ともに健康で豊かに生きること)を目指す街としてつくられた。オフィス、住宅、商業施設、文化施設、教育機関や医療機関など、様々な都市機能が集積するなかでも、アートの面積はヒルズ全体で9300平米となり、重要な要素となっている。注目すべきスポットベスト7をご紹介する。
①トーマス・ヘザウィックによる建築(ガーデンプラザ)
麻布台ヒルズが開業する以前から注目されてきたのがその建築デザインだろう。麻布台ヒルズでは、その建築を多数のアーキテクトが担当している。もっとも高いタワーの外観はPelli Clarke & Partners(故シーザー・ペリとフレッド・W・クラーク)が、住宅インテリアはMarco Costanzi ArchitectsやYabu Pushelbergが、商業空間は藤本壮介建築設計事務所らが手がけた。そして麻布台ヒルズを象徴する低層部デザインを手がけたのが、Heatherwick Studio(トーマス・ヘザウィック)だ。
ヘザウィックはロンドンオリンピックの聖火台や、2010年上海万博の「上海万博英国館」、マンハッタンの「ヴェッセル」など、数々の独創的なプロジェクトを手がけてきたデザイナー。「人間味」や「感情的な機能」を重視しており、麻布台ヒルズはヘザウィック・スタジオが日本で初めて手がけるプロジェクトとなる。
まるで木の根っこがうねるようなデザインは、「ヒルズ」の名の通り起伏のある土地をそのまま表現したようにも見える。また低層部の屋上は緑化されており、都心にありながら自然を感じられることができるデザインとなっている。
②パブリック・アート(森JPタワー・中央広場)
麻布台ヒルズには、合計4人のアーティストによるパブリック・アートが点在する。なかでも象徴的なのは、オラファー・エリアソンと奈良美智だろう。
麻布台ヒルズギャラリーのこけら落としも飾るオラファー・エリアソンは、高層タワーの森JPタワーに立体作品《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》を展示。同作は天井高約15メートルの吹き抜け空間に連続的に吊るされた、直径約3メートルにおよぶ 4つの彫刻により構成されており、スタジオ・オラファー・エリアソンが長年続けてきた幾何学的形体の研究や地質学的な時間に対する概念的な問いにもとづき、初めて再生金属が使われた。
いっぽう、中央広場には奈良の野外彫刻《東京の森の子》が設置。東京で奈良の野外彫刻が恒久展示されるのが、これが初めてだ。木のような頭部を持つブロンズ像で、高さは約7メートル。奈良はこれまで同様の作品として《Miss Forest / 森の子》(青森県立美術館)、《森の子》(N’s YARD)などを手がけており、本作は「森の子」シリーズの8体目。シリーズ過去最大のサイズだ。
そのほか、曽根裕、ジャン・ワンによる作品も中央広場で見ることができる。
③麻布台ヒルズギャラリー(ガーデンプラザ)
麻布台ヒルズのアートを支えるコアと言えるのが、ガーデンプラザAにある麻布台ヒルズギャラリーだ。
同ギャラリーの敷地面積は約2300平米。展示面積は約700平米で、B1階の麻布台ヒルズギャラリーカフェと麻布台ヒルズギャラリースペース、MB階の麻布台ヒルズギャラリーで構成されている。
ギャラリーの開館記念展は、森JPタワーのパブリック・アートとも連動する「オラファー・エリアソン展:相互に繋がりあう瞬間が協和する周期」(11月24日〜2024年3月31日)。同展では、カラフルで複雑な幾何学の輪郭や影を生み出す《蛍の生物圏(マグマの流星)》(2023)やリサイクル亜鉛を使用した彫刻作品《呼吸のための空気》(2023)などの新作のほか、水を使用したインスタレーション《瞬間の家》(2010)も見ることができる。
なお、麻布台ヒルズギャラリーカフェでは、本展の会期中限定でベルリンの「スタジオ・オラファー・エリアソン キッチン」とコラボレーションした特別メニューも提供されているので、忘れずに立ち寄りたい。
④ペース(ガーデンプラザ)
世界でもっとも巨大なギャラリーのひとつである「ペース」は、麻布台ヒルズに2024年春に日本初となるギャラリースペースをオープンする。
ペースはニューヨークやロンドン、ジュネーブ、香港、ソウルなど、世界中に8つの拠点を持つメガギャラリー。1960年にアーニー・グリムシャーによって創立されて以来、アレクサンダー・カルダーやウィレム・デ・クーニング、デイヴィッド・ホックニー、ジェフ・クーンズ、ソル・ルウィット、マーク・ロスコ、ロバート・ラウシェンバーグなど、世界でもっとも影響力のある現代アーティストを数多く紹介しており、日本で活動するアーティストのなかでは、李禹煥、奈良美智、名和晃平、チームラボなども取り扱っている。
新しい東京スペースは、ヘザウィックデザインの低層エリアにオープン。建物の3フロアにわたり、総面積510平米を超えるスペースを有するこのスペースは、東京のギャラリーのなかでも最大級のものとなる。開業が待ち遠しいスポットだ。
⑤森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(ガーデンプラザ)
チームラボの境界のないアート群による「地図の ないミュージアム」として、2018年6月に東京・お台場にオープンした「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」が、麻布台ヒルズに移転した。場所はガーデンプラザBの地下1階。
施設面積約7000平米という巨大なこの施設では、世界初公開となる2作品も展示。それが、無数の球体群によって埋め尽くされ、それぞれの球体の中に異なる光の現象が入り混じる《Bubble Universe》と、チームラボボーダレスの世界を構成する様々な作品群が部屋から部屋へと移動し、入り込む《Megalith Crystal Formation》だ。世界でここでしか鑑賞できない作品を展示することによって、チームラボボーダレスはこれまで以上に「日本・東京のアートデスティネーション」として位置付けられるだろう。
⑥Gallery & Restaurant 舞台裏(ガーデンプラザ)
「ArtSticker(アートスティッカー)」を運営する株式会社The Chain Museum。同社が麻布台ヒルズにオープンさせた新たなアートスペースが「Gallery & Restaurant 舞台裏」だ。
Gallery & Restaurant 舞台裏は、KAIKA 東京 by THE SHARE HOTELS内に開業した「GALLERY ROOM・A」、六本木の「ANB Tokyo」跡地に開業した「アートかビーフンか白厨」に続く、The Chain Museumによる3ヶ所目のアートスペース。その名の通り、ギャラリーとレストランを隔てるパネルが舞台(ギャラリー)と舞台裏(レストラン)の空間を生み出しており、お酒や食事、談笑を楽しみながら、アート作品を鑑賞することが可能となっている。こけら落としは加藤泉の個展となっており、アルミ鋳造による巨大立体作品が存在感を放つ。
⑦集英社マンガアートヘリテージ(ガーデンプラザ)
集英社によるアートスペース「集英社マンガアートヘリテージ」にも注目だ。集英社が手がける「マンガアート」のギャラリーで、同プロジェクト初のリアル店舗となる。
同ギャラリーで扱うのは、尾田栄一郎の「ONE PIECE」や久保帯人「BLEACH」など、集英社のマンガのアートプリントだ。空間はシリンダーを使う輪転印刷機をイメージした曲線的な内装デザインとなっており、掛軸作品などを展示するための3畳の「茶室」と、購入する作品を選ぶためのラウンジもある。