9月6日、第2回「フリーズ・ソウル」アートフェアの開幕前の朝。ペース・ギャラリーのCEO、マーク・グリムシャーにその滞在先のホテルでインタビューを行った。
ペースはその前日の夕方、2024年春に東京に新しいスペースをオープンすると発表。このスペースの構想は、2021年4月にNikkei Asiaによって初めて明らかにされたが、今月正式に発表されるまで、同プロジェクトが延期されるという噂が何度も流れていた。
グリムシャーは、過去2年間、彼のチームが東京でのスペース開設をやめさせようとし、誰もが「日本にはアートマーケットがない」と言っているにもかかわらず、東京のスペースと日本のアートマーケットの未来に希望を抱いているという。
東京の状況は急速に変わりつつあり、ソウルで起こっていることが東京でも起こりうる。また、日本政府はアート・ビジネスにとってより友好的な環境をつくろうとしていると語るグリムチャー。今回のインタビューでは、東京の新しいスペースや、東京、ソウル、香港のアートシーンの比較、そしてTokyo Gendaiのコミッティーを辞退した理由などについて話を聞いた。
ソウルで起こっていることが東京でも起こりうる
──まず、ペースが東京にスペースを開こうと思った理由について教えてください。
マーク・グリムシャー(以下、グリムシャー) 東京は世界有数の文化都市です。ペース・ギャラリーの歴史全体を通し、私たちがとても親しんできた場所です。そしていま、東京の状況が非常に大きく好転しているように感じており、そのエネルギーは素晴らしいものがあります。ギャラリーの世界的な拡張のなか、「なぜ私たちが東京に行くのか?」ではなく、「なぜ東京にはほかに誰もいないのか?」ということです。
ペースの作家たちに、「世界でもっとも展覧会を開きたい場所はどこか?」と尋ねると、みんな東京だと答えると思います。とくに20世紀のクリエイティビティの歴史において、東京はとても重要な場所ですし、私たちは東京と素晴らしい関係を築いています。加えて、素晴らしいプロジェクトを行っている新しいコレクターたちもいます。
私たちはソウルで起こったことと同じ可能性を東京にも感じています。私たちが6年前にソウルに進出したとき、「ここはよそ者が来る場所ではない」と言われていました。当時、ソウルの海外ギャラリーはペースとパリ拠点のペロタンだけで、みんな私たちを「クレイジー」だと思っていたのです。しかし、ソウルの状況が大きく変わっていくのを目の当たりにしたいま、東京でも同じようなことが起こると思います。
──昨年、ペース・ソウルでのプレスプレビューで東京でのスペース開設について質問しました。そのとき、あなたは「日本には、国際的なビジネスを機能させるための多くの官僚的な妨害がある」と言いました。現在、そのような障壁は解消されていると思いますか?
グリムシャー 間違いなく解消されつつあります。私たちは大臣や省庁と素晴らしい仕事をし、会合を重ねてきました。日本政府は、日本をアート・ビジネスに適した国にすることを強く望んでいます。まだ進行中ですが、多くの進展がありました。
──具体的にどのようなことをされたのでしょうか?
グリムシャー 各省庁や税関、輸入部門の関係者と緊密に話し合っています。どのような話をしているかは言えませんが、いまのところ成功していると言えます。
──日本政府と森ビルは新しいスペースのために何か支援をしたのでしょうか?
グリムシャー 金銭的な支援はないのですが、彼らは日本に来るすべての人が働きやすくなるような改革を行おうとしています。
──日本での売れ行きについて心配ではありませんか? 利益を出すためにどうするつもりですか?
グリムシャー そんな心配はしていませんよ。僕は商売が下手なんです(笑)。どれだけエキサイティングなことになるかしか考えていませんし、アーティストと一緒に来日し、展覧会をインストールしたいだけです。日本には、素晴らしいキュレーターやライター、コレクターがいます。これまでのところ私にとってはかなりうまくいっていますから、その質問の答えは、「まったく心配していない」ということになりますね。
──具体的な戦略はありますか?
グリムシャー 私たちにとって十分でない唯一のものはアートです。「なぜ日本に行くのか? 日本にはアートマーケットがないし」と聞かれますが、それこそが日本に行く理由なんです。すでに何百もの国際的なギャラリーがある場所には行きません。それは面白くないですから。可能性があるのに、まだ実現されていないところにこそ行きたいです。
──東京スペースのディレクターはすでに決まっているのですか?