少女マンガ黄金期を支えた3人の代表作を紹介
会場は4つのセクションで構成されている。最初のセクション「少女漫画の金字塔」では、まずは3人のマンガ家の代表作を天井のバナーやカラー原画といったビジュアルで紹介し、展覧会の導入としている。

セクション2「デビューの頃」では、1960年代後半の3人のデビュー期の作品の展示とともに、当時の少女マンガ雑誌を一望する。1950年代の少女マンガの作者は男性マンガ家が多くを占めていたが、60年代に入ると女性マンガ家が台頭、60年代後半には男女比が逆転した。70年代になると新たな雑誌が次々と創刊され、萩尾、山岸、大和に代表されるような戦後生まれの女性マンガ家が活躍するようになった。本セクションでは3人の初期作品の原稿を紹介するとともに、当時の少女マンガ雑誌を展示している。

大和和紀──歴史のなかで自ら道を切り開く少女像
セクション3「3つの宇宙」からは、3人のマンガ家それぞれの作品を紹介しつつ、原画を見ていく構成となっている。まず紹介されるのは大和和紀だ。
大和は18歳でデビューするとともに、少女マンガ界の新星として頭角を現していった。『源氏物語』をコミカルな表現で翻案した『ラブパック』(1973)からは、のちの『はいからさんが通る』や『あさきゆめみし』に通じる歴史への興味と、読者である思春期の少女たちの内面を投影したキャラクターの造形力を感じることができる。

大和の代表作である『はいからさんが通る』は、大正ロマンの時代を背景に、勝ち気で活発な主人公と陸軍少尉との恋愛模様を描いたラブ・コメディだ。シベリア出兵をはじめとした戦争の予感なども織り込みながら、歴史の大きな流れのなかで自分らしく生きようとする女性の姿が多くの読者を引きつけた。

『あさきゆめみし』は紫式部『源氏物語』の翻案で、現在も古典を学ぶ中高生に広くよく読まれている作品。本作を描くにあたり大和は、平安時代の衣服や建築などを考証しながら作中に描くとともに、平安時代の女性を描く際に必須となる長い髪や鮮やかな柄の装束を細やかな筆致により引き立たせた。さらに原作の登場人物を「キャラクター」として生き生きと性格づけし、また女性たちの自我や心情をより強調することで、『源氏物語』から時代を超える普遍性を抽出した。

大和は、女性の社会的な役割や家族の複雑さを、優れたエンターテインメントとしてコミカルに描いた作品も得意とする。『ハイヒール COP』(1989-97)は、破天荒な女性刑事が理想の男性像「5E」を求めつつ事件を解決していくサスペンスコメディ。『ベビーシッター・ギン!』(1997-2007)は、プロのナニー(乳母)を自認する男性・ギンが、様々な家庭の問題に向き合い解決へ導く連作だ。いずれも軽やかだからこそ伝わってくる、社会の構造と対峙する個々人の心象が鮮やかに描かれている。
萩尾望都──巧みなストーリーテリングと舞台設定の妙味
萩尾望都の初期の代表作としてまず名前があがるのが『ポーの一族』だろう。少年の姿のまま「バンパネラ(吸血鬼)」となり、時を止めて生きることができるエドガーを中心に据え、異なる時系列と視点の異なるエピソードをひとつの物語として編み上げるスリリングな物語は、当時の読者に強い印象を残した。


『トーマの心臓』は、ギムナジウム(ドイツの寄宿制の教育機関)という閉じられた空間で、ひとりの少年の死をめぐる少年たちの心の複雑な動きが描かれる。萩尾は『ポーの一族』でもギムナジウムを中心に据えたエピソードを描いているが、こうした閉鎖的な空間での心理劇は、少女マンガに限らず以降のマンガ作品に多大な影響を与えた。

また、SFを手がけたことも萩尾の作歴の大きな特徴と言える。とくに『11人いる!』は現在に至るまで映画、ドラマ、舞台などに幅広く展開された作品だ。漂流する宇宙船で、10人の受験生が力を合わせて53日間生き延びる宇宙大学の最終試験に、11人の人間が集まったことから始まる本作。本格的なSFであると同時に、宇宙空間の密室で繰り広げられるミステリーという側面も持ち合わせており、時代を超えて舞台化やドラマ化をされて愛される作品となっている。

萩尾が80年代に手がけた『メッシュ』(1980-84)はパリで生きる2人の生年の交友と、そこで生まれる互いの複雑な感情や自己との対峙が、詩的な余白を生かしながら表現される作品だ。巧みなプロットや設定が目を引く萩尾の作品だが、それを舞台に動く登場人物の心情を引き出すコマのリズムや描きこみの足し引きの妙味にも注目したい。



















